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ニュース一覧 2016.05.18 up

公演情報

【特別寄稿】大野和士が大いに語る、6月A・B定期プログラム Vol.1


Ono_Kazushi
© Tomoko Hidaki


音楽監督・第2期目を迎える大野和士が、いよいよ6月定期に登場。シーズン初回は、まさに“The大野ファンタジー”溢れるプログラムが並びます。音が織りなすイメージ、色彩、内包する感情の陰影、光と影… その魅力と秘密を語り尽くす怒涛の3000字!大野節全開でお送りします。全2回。

【6月8日、9日/AB定期】

 
ブリテン:歌劇『ピーター・グライムズ』より「4つの海の間奏曲」op.33a

 一滴の水の音の表現が、ここまで人間の内面を描き出したことは今までにあったでしょうか。『ピーター・グライムズ』は、うら寂れた漁村を舞台にしたオペラですが、ブリテン(1913~76)のあまりに繊細で、それと同時に真実を見つめる鋭い感性は、この海の音を毎日耳にしながら生きている村の人々の、それぞれの内面をえぐり出しています。主人公グライムズの、孤独に苛まれ、時には我を忘れてどうしようもなく荒れ狂う姿が、海の凪から凶暴な嵐の描写と重なります。

 村の人々は、偏屈なグライムズと彼の漁の弟子への暴力の疑いで、彼を糾弾します。しかし実際は、グライムズのむき出しの純粋さに対して、村の人々は正義を装っていますがそれぞれ深い心の闇を抱えています。「4つの海の間奏曲」は、オペラの場面をつなぐ曲として作曲されています。主人公と彼を取り巻く人々の内側を海が語り継ぐ妙味をお聴きください。



ブリテン:イリュミナシオン op.18

Ono_Kazushi
テノール/イアン・ボストリッジ © Simon Fowler



 アルチュール・ランボー(1854~91)の詩集『イリュミナシオン』のタイトルは、文字通り「光」という意味ですが、彼のこの世をはるかに超越した感覚により、異様な世界が繰り広げられています。この詩集の中には、光の輝かしさを賛美すると同時に、その足元に不吉に広がる闇、その影の中に立ち上る幻影、光の照らし出す現実社会への鋭い批判などが、これでもかと投げつけられるようです。ランボーの独特の才能は、光を見つめながらも、それと同時に、ある意味で逆光的な観点から沸き起こるイメージを展開させていると言えるのではないでしょうか。

 ブリテンは、その内的指向性への共感から、ランボーを特に身近に感じていたと言われていますが、それと同時に、神経が体の表面に浮き出ているのではと思わせる繊細な感性、そこから時として呼び起こされる大いなる抵抗力など、両者を結びつける要素は多く、ブリテンがこの詩を選択したのには大きな必然性があると考えられます。

 この曲のソリストは、日本でもおなじみのイアン・ボストリッジです。私は2014年春、リヨンで彼と初めて共演しました。曲は、ホルン・ソロのオブリガートでも知られるブリテンの《セレナーデ》でした。彼の声の特徴の一つに、どのような声域でも、ある独特な憂いを含んだ響きを帯びていることが挙げられます。《セレナーデ》は、穏やかでポジティヴな楽想が多いのですが、それでも、第3曲「夜想曲」で“Bugle, blow; answer, echoes, answer, dying, dying, dying(角笛よ響け、こだまは答えよ、次第に消えながら)”の部分を彼が歌うと、ほのかな哀調に包まれるのでした。

 その際、練習の過程で今までにないような経験をしました。ボストリッジを迎え、リハーサルが始まると、オーケストラ全員の意識がとっさに変わったような気がしました。1曲ごとに、彼の顔を伺うと、彼はただ微笑んで先を促しました。そのまま、全曲を一気に終えました。普段だとオーケストラの団員から一斉に拍手が起こるところですが、今回は一瞬、静寂がその場を支配したのち、深い夢から覚めたように、ため息を含んだ上品な賛嘆の声が上がったのです。そして、彼は再び微笑みを浮かべながら「ありがとう」とひとこと言って、なんとリハーサルはそれで終了したのでした。
 《セレナーデ》という曲に、ときめきと同時に、ある不安を感じさせるような甘味を与えることのできるボストリッジの歌う、《イリュミナシオン》にどうかご期待ください。


Vol.2 ドビュッシー&スクリャービン に続きます。
6月8日(水)19:00開演 東京文化会館
 第809回 定期演奏会Aシリーズ
6月9日(木)19:00開演 サントリーホール
 第810回 定期演奏会Bシリーズ

 指揮/大野和士
 テノール/イアン・ボストリッジ *

 ブリテン:歌劇『ピーター・グライムズ』より「4つの海の間奏曲」op.33a
 ブリテン:イリュミナシオン op.18 *
 ドビュッシー:《夜想曲》より「雲」「祭」
 スクリャービン:法悦の詩 op.54 (交響曲第4番)

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