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ニュース一覧 2013.01.17 up

レポート

シンガポール交響楽団⇔東京都交響楽団
平成24年度 楽団員 国際交流事業 リポート

 東京都交響楽団では平成21年度より、シンガポール交響楽団との楽団員交流事業を実施しております。
 この交流事業は、都響とシンガポール響とが互いに演奏家を派遣、約2週間にわたり、リハーサルや演奏会に従事して交流を行うもので、《首都東京の文化大使》である都響が推進する文化交流の一環として取り組んでいます。
 4回目の実施となった本年度は、まず都響コントラバス奏者・佐野央子がシンガポールへ行き、シンガポール響からはファゴット奏者クリストフ・ヴィッヒェルトさんが来日しました。2人のインタビューをお届けします。


●佐野央子
(東京都交響楽団コントラバス奏者)


シンガポールに11月27日から12月8日まで滞在。シンガポール響の定期演奏会(11月30日/チャイコフスキー《ヴァイオリン協奏曲》、ショスタコーヴィチ《交響曲第11番「1905年」》)やベイビーズ・プロムス(12月6日、8日)に参加しました。




  • シンガポールにて

  •  リハーサル初日は緊張していたので、ホールにだいぶ早く着いて練習していたのですが、私以外は誰一人来てなくて(笑)。本当に今日はリハーサルがあるのだろうか、と不安になりつつ、でも5分前になると皆がわーっと集まってきて音を出し始める。
     演奏は最初まとまらなくて、リハ初日はボウイングも決まってなくて。でも本番はきちんと仕上がるんです。3日間のリハで急激に仕上げていくエネルギーはすごいなと思いました。
     シンガポールは小さな島国ですが、オーケストラは大らかで大陸的な音を持っています。メンバーは様々な国から集まっていて、弦楽器は中国系の方が多い感じがしましたが、金管楽器は欧米出身の人が多く、アメリカ風の明るくてパワフルな音が印象的でした。
     コントラバス首席はロシア出身の方。他にイギリスやアメリカで勉強した方、ポーランド出身の方はウィーンで勉強していた、など、生まれも育ちもシンガポールという人はコントラバス・セクションにはいませんでした。本当に多国籍オーケストラですね。



  • セクションの誇り

  •  私はカレンさんという女性の隣で弾かせていただいたんですが、この人は肝っ玉母さんみたいなキャラクターで、素敵な方でした。周囲に「ここはこうでしょ?」と、わーっと早口で意見を言ったりするんですが、決して怒っているわけではなく、実は細かく気遣いをする人。私が携帯電話をなくした時も、「大丈夫。大丈夫って思っていれば見つかるから、お昼食べに行こう」と。一方で事務所に電話していろいろ手配していただいて、食事から帰ったら本当に携帯電話が見つかったんですよ。こういうポジティブ思考はさすがだなと思いました。
     コントラバス首席の方にもお話を伺ったんですが、彼はモスクワで勉強して、そこでプロとして仕事を始め、シンガポールへ移って20年。シンガポール響で弾き始めたころはスタイルが合わなくて大変だったけれど、いろいろなところで勉強してきたメンバーには、それぞれ役割がある。時間が経つにつれてお互いに良い影響を与え合って、今は良いコントラバス・セクションになったと思う、と。首席としてポリシーがあって、動じない何かがある方でしたね。


  • ベイビーズ・プロムス


  •  子ども向けの「ベイビーズ・プロムス(Babies’ Proms)」というコンサートにも参加したのですが、これはとても楽しかった。すぐにチケットが完売になる人気企画で、会場は0~3歳くらいの子が中心、あとはお母さん、お父さん。指揮者/プレゼンターのピーター・ムーアさんがお話をしながら進行する1時間のプログラムでした。《タイタニック》《007》《ミッション:インポッシブル》といった映画音楽をはじめ、《カルメン》《美しき青きドナウ》などクラシックもありますが、全曲ではなく聴きどころの抜粋。曲目は毎年変えているみたいです。
     子どもたちを全く飽きさせず、「木になって揺れてみましょう」と身体を動かしたり、パンパンと手を叩いたり、「足踏みをしましょう」と指示しながらムーアさんが会場を回って皆とハイタッチしたり。日本でも子ども向けのコンサートは増えてきましたけれど、ここまでエンタテインメントに満ちたものはないなと。これを参考に、都響でも何かできると良いな、と思っています。



  • 音楽の素晴らしさ

  •  シンガポール響でショスタコーヴィチの11番を弾きながら、これを都響で弾いたらこうなるだろうな、と頭の中でいつの間にかシミュレーションしていました。都響のコントラバス・セクションだったら別の方向に自然に行くだろうと。どちらが正しいとは言えないですけれど、そういう演奏感覚の集積で、オーケストラってできていくんだな、と思いました。海外の、文化が異なる国のオーケストラで弾くと、自分たちが何をやっているのかよく分かりますね。
     ただ、国が違い、言葉が通じなくても、音楽でつながることができる。改めて音楽の素晴らしさを実感しました。本当に新鮮で、貴重な体験をすることができました。ありがとうございます。






    ●クリストフ・ヴィッヒェルト
    (シンガポール交響楽団ファゴット奏者)


    東京に12月6日から15日まで滞在。都響のオーケストラ鑑賞教室や定期演奏会(12月15日/コダーイ《ガランタ舞曲》、バルトーク《中国の不思議な役人》組曲など)に参加しました。




  • シンガポール響と都響

  •  シンガポール響は、シンガポールという国と同じく世界中から人が集まり、様々なバックグラウンドを背負ったメンバー(出身国は17ヵ国に及ぶ)から成るオーケストラです。それぞれのスキルでオーケストラに貢献することで独自の響きを作ろうとしています。
     それに対して、都響のメンバーは全員が日本人。多くの楽団員が海外留学をしているとのことですが、音楽教育のメソッドを共有しており、日本のオーケストラの伝統(コンパクトで優雅な響き)を持っていると感じました。その点ではシンガポール響より一体感があると思いますが、どちらが良い、ということではなく、オーケストラそれぞれの個性なのでしょうね。
     両方のオーケストラに共通しているのは、雰囲気が良いことです。とてもフレンドリーで協力的。都響はシンガポール響と似ていて、家族的なオーケストラです。皆さんが歓迎してくれて、とても親切にしてくださいました。



  • アジアとの出会い

  •  私はオーストリア出身で、子どものころは合唱団に参加していました。ある時、オーケストラと一緒に歌う機会があり、ファゴットという楽器の存在を知りました。すぐに習いたいと思ったわけではないのですが、その後ウィーン・フィルの演奏会でストラヴィンスキー《火の鳥》とチャイコフスキー《交響曲第4番》を聴き、改めてファゴットの音に触れて、この楽器をやりたい、と思ったのです。
     ウィーンで勉強し、現在はシンガポール響で仕事をしています。これは運命と幸運、そして好奇心の巡り合わせですね。「運命」としては、私はかつて財政的な縮小により仕事を失い、新しい機会を探さなければなりませんでした。そして「幸運」が訪れます。オーケストラの仕事を探している人が、求人しているオーケストラに出会い、その仕事に就けるのは幸運なことです。また、私はヨーロッパ以外の土地に長期間住むことに「好奇心」があり、アジアに大変興味がありました。シンガポールは、全てのアジア文化の独特な坩堝であり、素晴らしいことだと思います。



  • ラデツキー行進曲

  •  今回はオーケストラ鑑賞教室にも参加させていただき、《ラデツキー行進曲》を演奏しました。私にとってこの曲は、学生時代の舞踏会オーケストラや、軍隊バンド(オーストリアには兵役義務があります)で演奏した思い出の曲です。よく知っている曲でしたので、暗譜のための練習も必要ないくらいでした。
     オーケストラ鑑賞教室は、プロフェッショナルな企画ですね。聴衆を育て、発展させることに真剣に取り組み、充実した演奏会にしている。これはオーケストラの将来につながると思います。オーケストラ鑑賞教室は良い経験になりました。

  • 日本の印象

  •  東京へは前にも訪れたことがありますが、その時は演奏旅行だったため、あまり街を満喫できませんでした。今回は日本のオーケストラとの仕事ですから、滞在をとても楽しんでいます。東京の活発でカラフルで創造的な生活は以前から好きでした。ライフスタイルが多様で、とにかく食べものが好きです。オフには東京スカイツリーへ行って富士山を見たり、新宿御苑や浅草寺、そしてもちろん音楽家として銀座のヤマハへ足を運んだりしています。週末には鎌倉へ行き、海を見たりもしました。

  • 交流事業について

  •  交流事業に参加させていただき、大変感謝しています。日本のオーケストラについての見識を得ることができましたから。皆さんの仕事への取り組みには感心しています。
     シンガポールにはプロのオーケストラが一つしかありません。他のアジアの国やヨーロッパのように、音楽祭の(臨時編成の)オーケストラで仕事をする機会もあまりないので、シンガポール響以外のオーケストラで新しい雰囲気を知り、自分の仕事を違った角度から見るのに大変良い機会だと思いました。ヨーロッパでも、オーケストラ同士の交流事業の存在はあまり聞いたことがありません。この事業がこれからも続くことを願っています。

    (構成/友部衆樹)