都響の2018年度は、音楽監督・大野和士によるマーラーの大作「交響曲第3番」で幕開けです。
その聴きどころや楽しみ方を、楽員3名にインタビューしました。
聴いたことがある方も、これから初めて聴く方も楽しめる内容となっております。
順次UPしていきますので、どうぞお楽しみに!

マーラー:交響曲第3番 
楽員ミニインタビュー

  • 首席トロンボーン奏者 小田桐寛之
    ―トロンボーンのソロでは、「夏」というテーマだけではないものも感じています

     30分ほどもある1楽章では、3箇所にトロンボーンの美しいソロがあります。今回は、そのソロについてご紹介します。

    マーラーの交響曲第3番には、「夏の朝の夢」という副題がついているのですが、私はこの曲に対して、一般的に言う「夏」というイメージだけではないものを感じています。なぜなら、マーラーがこの曲を書き始めた1895年に弟さんが亡くなっているからです。特にユダヤ系の作曲者はトロンボーンのソロを神の音として扱うことがとても多いので、その弟の死と何か関係があるような気がしてなりません。この1楽章には、明るいテーマと暗いテーマの2つがあり、トロンボーンソロの前には重苦しい暗いテーマがあるので、弟を亡くしたマーラーの辛い重苦しい心の中を思いながら演奏したいと思っています。

  • ―マーラーはf fの所だけでなく、pのニュアンスを出すのが難しいです

     マーラーの楽曲を演奏するにあたって、大切にしていること、難しいと感じるところを聞きました。

    マーラーは、ブルックナーやワーグナーのように演奏技術の難しいところが各場所にありますが、体力的にきついと言うよりも精神的にきつい所が沢山あるような気がします。それはすごく神経を遣い、音の強弱や繊細なニュアンスを要求される部分が多いからです。ffの所だけでなく、pのニュアンスを出すのが難しい…だから繊細な部分にとても気を遣って吹いています。もちろん他の作曲家の曲でもそういった部分はありますが、マーラーはより多い作曲家だと思います。

  • ― 最後のコラールの美しさはとてつもない美しさです

     今回はトロンボーンパートのおすすめポイントをご紹介します。

    マーラーの交響曲第3番は、トロンボーン奏者にとっては特別な曲です。トロンボーンソロが複数あるオーケストラの曲は多くないので、とても重要な曲だと思います。もちろんソロも聴いてほしいのですが、6楽章のコラールもぜひ聴いていただきたいと思います。もともと6楽章には「愛が私に語ること」という副題がついており、1~5楽章までを経て高められた森羅万象の世界観や、神への愛が最後のコラールの所で結集されていると感じているからです。トロンボーンパートとしては、6楽章に入ってから15分近く待っていて、そこからpで吹かなくてはならない辛さがあるのですが(笑) しかしこの美しさはとてつもない美しさで、吹きながらいつも、一番好きなところです。最後の1場面だけですけれど、それを聴いていただけたら、お楽み頂けるのではないかと思います。

  • ―大野さんとマーラーをやることに、不思議な巡り合わせを感じています

     今回の大野さんとのマーラー第3番には、特別な思いがあるそうです。

    大野さんは、私が都響に入団(1986年)した数年後、1990年に都響指揮者に就任されました。当時大野さんも若くて、フィンランドの演奏旅行(1990年)などに一緒に行ったりしました。そして私が定年が近くなった頃に、彼が都響の音楽監督としてまたいらっしゃり、私は始まりと終わりが大野さんなんだ……と感慨深い思いがあります。
    今回の定期演奏会で演奏するマーラー第3番は、トロンボーン奏者にとって一生のうちに数回しか演奏する機会がない曲だと思います。そう考えたら60歳を過ぎてもう一回できることは楽しみですし、大野さんの指揮で演奏することも自分にとって特別なことだと思います。この曲を私が演奏するのはおそらく最後になると思いますから、この巡り合わせを感じながら演奏したいと思っています。

  • 首席トランペット奏者 岡崎耕二
    ―マーラーが目指していた音に近づけるため、毎回試行錯誤しています。

     マーラーの交響曲第3番の3楽章には、「ポストホルン」という楽器が指定されたパートがあります。ホルンと名前にありますが、トランペット奏者が演奏します。
    今回はポストホルンという楽器について聞きました。


    まずはポストホルンという楽器に馴染みがない方の為に、この楽器を説明したいと思います。
    ポストホルンは、「郵便ラッパ」とも言われている楽器です。昔のヨーロッパで郵便を知らせるために使われていました。演奏に使う楽器ではないので、ピストンもロータリーもありません。何も付いていない金属の管で出来ており、倍音しか出ないようになっています。それに音程を付けてメロディックに吹くのはとても難しいので、3楽章のポストホルンパートは、通常コルネットやフリューゲルホルンを用いて演奏されます。
    それとは別に、演奏会でポストホルンがあまり使われない理由として、音色があります。この3楽章のポストホルンパートは、まるでどこからともなく現れる美しい夢のような箇所です。そうすると、本物のポストホルンでは、金属っぽい音色で雰囲気が合わないように思えます。マーラーはどのような音を目指していたのか、楽譜の中にある音楽から読み解き、その上で楽器を選ぼうと思っています。

    • ポストホルン

  • ―楽器にストレスがなく、聴いている人にも心地良い音を探し求めています。

     ポストホルンは「バンダ」で演奏するという指定があります。「バンダ」というのは、舞台裏などで演奏するパートを指す言葉です。音が空気を伝わるには微妙な時差があるので、舞台上の演奏と合わせるのは非常に難しく、指揮者との連携が重要になります。
    今回は「バンダ」の難しさ、そして「バンダ」という客席から姿が見えないところで演奏するこだわりを聞きました。


    バンダは舞台上との時差もあるので、指揮者と気持ちを合わせなければいけません。ホールごとに音響が違うので、G.P.(=本番前リハーサル)では念入りに確認をします。
    こだわりとしては、客席から見えないところで演奏をしているので、目をつむって聴いていても心地よい音楽が流れなければいけないと考えています。心地よいと感じて頂くためには、音程、音色、歌い方、すべてが大切だと思います。特に音色については、どの楽器で演奏するか試行錯誤を重ねています。例えば、B管のコルネット、Es管のコルネット、B管のフリューゲルホルン、ロータリートランペット…ポストホルンにバルブを付けた楽器もあるので試してみたり、楽器にストレスがなく、聴いている人にも心地良い音を探し求めています。
    実際にアルペンホルンを聞いたことがあるのですが、音が山へ無限に広がってゆく感覚があり、感動しました。自分の中では、そういう音を出せたらいいなと思っています。どの楽器を、どこで演奏するのか、どうぞ楽しみにしていてください。

    今回舞台上で使われるのは、ロータリートランペットという、ピストントランペットよりも音色が柔らかな楽器だそうです。そしてバンダでは、ロータリートランペットとはまた一味音色の違うものを思案中だとのことです。最終的にどの楽器が使われるのか、ご注目ください。

  • ―夢から覚めるような場面が、私のおすすめです。

     今回は、3楽章のおすすめポイントをご紹介します。

    3楽章で私が吹いているところは、夢のところだと感じています。どこからともなく美しい音楽が聴こえてきて、聴いている人が森や草原など、自然の風景を自由に想像するところです。その後、突然ステージ上からミュートを付けたトランペットの音が鳴り響いてきて、夢から覚めるような場面が、私のおすすめです。[練習番号17番前 (譜例)]
    夢心地の中から、突然現実に引き戻され、また二度寝をしてしまう。そしてまた現実に引き戻され……というような、ポストホルンとオーケストラの掛け合いが何回もあり、回数を重ねるごとに雰囲気が移り変わってゆきます。非現実と現実の狭間の空間を、ぜひお楽しみいただけたらと思います。

  • ソロ・コンサートマスター 矢部達哉
    ―繊細さと集中力が必要な曲だと感じています。

     マーラーの交響曲第3番を演奏するにあたって、大切にしていることを聞きました。

    マーラーの第3番は、独唱・合唱・オーケストラで壮大に響くところもあれば、とても繊細なところもあり、様々な要素が含まれています。特にその繊細な部分が難しい音楽で、室内楽に近い演奏を求められることがあります。最も規模の大きい交響曲の一つですが※、色々な意味での繊細さと集中力が必要な曲だと感じています。
    指揮者の役割になるのかもしれませんが、マーラーの第3番は1楽章や6楽章がとても長く、そして全体の規模も大きいので、どこがクライマックスで、どこでリラックスするべきかなど、全体の調和を意識して演奏しています。

    ※演奏時間において、かつては「史上最も長い交響曲」として、ギネスブックに載っていました。

  • ―ソロを担当する奏者にとって、挑戦といって良いくらい難しい曲です。

     マーラー:交響曲第3番には、各所にヴァイオリンソロがありますが、その中で2楽章と4楽章について聞きました。

    2楽章は、綺麗で柔らかく優しい音楽を奏でていますが、実はソロを担当する奏者にとって、挑戦といって良いくらい難しい曲です。テンポの変化が多く、またソロの楽器に要求される難易度がとても高いからです。特に2楽章の最後では、アンサンブルとして難しいところがあり、最大限の集中力が求められていると感じます。
    また4楽章も、メゾソプラノが歌う荘厳な雰囲気の場面ですが、実は難しい楽章です。独唱とヴァイオリンがシンコペーションで重なった後にホルンがシンコペーションで入るところなど、複雑な要素があります。しかし、独唱と一緒にヴァイオリンソロが演奏するところがあり、そこはこの曲のヴァイオリンソロの中でも、聴いている方の心に残る素晴らしい場面だと思います。

  • ―なんて素晴らしい音楽だろうと聴き入っていました。

     この曲は、思い出の曲でもあるそうです。

    マーラー:交響曲第3番というのは、私にとってはノスタルジーそのもので、弾いていると昔を思いださずにはいられない気持ちになります。1990年6月6日 サントリーホールでの公演で、この曲を演奏しました。この時は都響に入団する前で、22歳の青年をコンサートマスターとして迎え入れるかどうか、試されていました。マーラーの第3番にはヴァイオリンソロの部分が多くあるので、私の演奏をみんなが注目していると感じました。
    私にとってこの曲は、客席ではなく舞台上で都響の演奏を聴く初めての機会でした。合唱が入る5楽章ではヴァイオリンが完全にお休みになるので、何にも音を出さず、なんて素晴らしい音楽だろうと聴き入っていました。そして5楽章の最後の音が鳴り終わった後にすぐ最終楽章に入り……その瞬間はめったにない感動的なところだと思っています。
    1990年の公演では第3代音楽監督の若杉 弘さんが指揮をし、その後第4代音楽監督のガリー・ベルティーニさんとも演奏をしました。歴代の音楽監督や首席指揮者など、ほとんどの指揮者たちがマーラーの第3番を取り上げてきました。自分の過去の記憶と、新しい指揮者とのチャレンジという意味で、とても大切な曲です。

  • ―大野さんと共に楽しんで大曲マーラーの第3番を演奏したいと思います。

     大野和士音楽監督の指揮でこの曲を演奏するにあたり、楽しみにしているところを聞きました。

    大野さんとマーラー第3番をいつかやりたいと思っていました。きっかけは、2011年に大野さんが京都市交響楽団でこの曲を演奏されていて(2011年7月24日 第548回定期演奏会)、その演奏会がとても素晴らしかったと耳にしていたからです。大野さんが楽譜から作曲者の心をつかみ取ろうとしている姿勢をとても尊敬しているので、音楽監督になった大野さんと、この曲を是非演奏したいと思っていました。難しい曲ではありますが、大野さんと共に楽しんでこの大曲を演奏したいと思います。

    • マーラー:交響曲第3番 小田桐寛之メッセージ

    • マーラー:交響曲第3番 岡崎耕二メッセージ

    • マーラー:交響曲第3番 矢部達哉メッセージ

    公演情報

    第852回 定期演奏会Aシリーズ

    2018年4月9日(月)19:00開演(18:20開場)
    東京文化会館

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    第853回 定期演奏会Bシリーズ

    2018年4月10日(火)19:00開演(18:20開場)
    サントリーホール

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    完売御礼

    指揮/大野和士
    メゾソプラノ/リリ・パーシキヴィ
    児童合唱/東京少年少女合唱隊
    女声合唱/新国立劇場合唱団

    マーラー:交響曲第3番 ニ短調

    フォトギャラリー

    • ポストホルン

    • コルネット

    • ロータリートランペット