

エリアフ・インバル -その咆哮が鍛えぬくのだ
東京都交響楽団 桂冠指揮者
エリアフ・インバル -その咆哮が鍛えぬくのだ
東京都交響楽団 桂冠指揮者
© Rikimaru Hotta
文/小室敬幸(音楽ライター)
2018年3月20日 第849回 定期演奏会Aシリーズ
© Rikimaru Hotta
御年83歳の老巨匠として、今も世界中のオーケストラと共に名演を聴かせている指揮者エリアフ・インバル。都響との関係は深く、今から28年前にさかのぼる。
1991年、都響と初めて共演したエリアフ・インバルは当時55歳。首席指揮者を務めていたフランクフルト放送交響楽団と共に録音したブルックナーやマーラーの交響曲全集で、日本のみならず世界各地で名を馳せていた頃だ。都響でもすぐさま絶賛を博したからであろう。その後も1999年までコンスタントに共演が続いていく。
しばし間があいて、2006年に再共演。これは筆者にとっても鮮烈なインバル体験となったため忘れ難い。日本のオーケストラがこれほどまでに朗々と鳴り響き、しなやかに呼吸するのを初めて体験したからだ。その翌々年にはプリンシパル・コンダクターに就任。記念公演でのマーラーの《千人の交響曲》も、あまりに壮大な凄演だったことがいまだに印象深い。以後は途切れることなく都響を指揮し、毎年壮絶な演奏を繰り広げている。
もうひとつ個人的な体験ではあるが、インバルの指揮というのは演奏者側にとっても特別な体験だということを記しておきたい。筆者はインバル指揮によるマーラーの《復活》に合唱団のメンバーとして共演したことがあるのだが、そのあまりに圧倒的な統率力には唖然とさせられるばかりであった。自らの求める音楽世界へと聴衆・演奏者を問わず、ホールのなかにいる誰も彼もを惹きつけてやまないのだ。
インバルも80代に入り、近年ますます円熟の境地に磨きがかかるだけに、一つ一つの公演がより貴重な機会としてますます聴き逃がせない。
© Rikimaru Hotta
先にも述べたように、ブルックナーの交響曲全集によって世界的な名声を博したインバルであったが、彼が注力したのはいわゆる「初期稿」での演奏だ。改訂癖のあったブルックナーは多くの交響曲を初演後に手直ししているのだが、通常演奏される「最終稿」の以前の姿にもブルックナー本来のプリミティブな魅力が溢れていることを我々聴衆に教えてくれたのがインバルであった。
実際に都響でも、2010年には交響曲第8番を第1稿(1887年版)で取り上げている。しかし、なんと今回演奏されるのは「最終稿」であるというから驚きだ。CDにも録音されていないインバルによる最終稿の第8番を聴けるチャンスは実に貴重なため、決して聴き逃したくないところ。
そもそもブルックナーが苦手という方もいるだろう。だがインバルのブルックナーは、複数の楽器が絡み合うテクスチュアも明快で、コントラストのはっきりとした筋骨隆々な演奏が特徴。遅々としたテンポで大伽藍を築くといったタイプの演奏が苦手な方にもお薦めできる。都響と録音されたブルックナーの第5番ではレコード芸術誌において特選盤に選ばれるなど、既に定まった評価も得ているだけに安心してお楽しみいただけるはずだ。
チェロ/ガブリエル・リプキン
1980年代に録音されたブルックナー、マーラーの交響曲全集で名を馳せたインバルだが、1990年代に入ると今度はウィーン交響楽団と組んでショスタコーヴィチの全集を完成させている。なかでも今回演奏される第5番については、既に3度も録音しているインバル自身にとっても思い入れのある作品。都響とも2011年の演奏会の模様がライヴ録音されており、こちらも名盤としてリスナーから高い評価を勝ち得ている。
そのうえ、2012年に録音された第4番ではレコード芸術誌で特選盤に選出され、更には『2012年度レコード・アカデミー賞交響楽部門』も受賞するなど、インバルと都響コンビによる演奏は現在、世界中で聴き得るショスタコーヴィチのなかでも屈指のものだと断言できる。昨年3月の第7番《レニングラード》でも凄まじい演奏を聴かせてくれただけに、8年振りの第5番にも期待がもてそうだ。
休憩前には、インバルと同じくイスラエル出身の名手ガブリエル・リプキンが登場。福岡と名古屋ではチャイコフスキーの実質的なチェロ協奏曲《ロココ風の主題による変奏曲》を、東京ではユダヤの民俗音楽を取り入れた名曲《シェロモ》を演奏する。ロシア系の両親のもとイスラエルに生まれたというリプキンは、情念のこもったスケールの大きな音楽を聴かせるチェリスト。どちらの曲目でも強い印象を残してくれること間違いなしだ。
ピアノ/サリーム・アシュカール © Luidmila Jermies
交響曲全集こそ録音していないが、インバルにとってはチャイコフスキーも欠かすことの出来ないレパートリーだ。とりわけ第5番は演奏機会が多く、今回で都響と共演するのは4回目。2009年の共演はディスクになっており、ロシア系の指揮者とはまた違った路線の濃厚さが印象深い。
敢えていえば、インバルの恩師でもある名指揮者レナード・バーンスタインに近く、バーンスタインのような見得を切っていくためにチャイコフスキーの音楽がもつドラマ性を極限まで強調する仕上がりになっている。しかしインバルは、決してテンポが停滞しないので、胃もたれまではしないのだ。チャイコフスキー演奏のひとつの極致といって過言ではないだろう。是非、生で体験していただきたい。
前半には、これまたインバルと同郷のサリーム・アシュカールが登場。今回で3回目の来日となるアシュカールの名は、今後徐々に日本でも知られていくことになるはずだ。既にウィーンフィルやコンセルトヘボウ管にもソリストとして呼ばれる第一級のピアニストである。ズビン・メータに見出された神童のひとりであり、ピアノの師でもあるバレンボイムを尊敬。演奏活動だけでなく、慈善活動や国際支援活動にも積極的に携わる知的な文化人なのだ。
ベルリンで学生時代を過ごしたアシュカールにとって、ベルリン交響楽団(現:ベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団)の首席指揮者であった同郷出身のインバルは憧れの存在。今回の初共演は、彼にとっても特別な機会なのだという。既にCDにも収録している得意曲、ベートーヴェンの協奏曲第1番をもってきたことからもその意気込みが伝わってくるだろう。敬愛するインバルと共に若きベートーヴェンの傑作の真価を聴かせてくれるはずだ。
TMSO Special
Mon. 17. July 2017, Tokyo Metropolitan Theatre
Anna LARSSON, Contralto
Daniel KIRCH, Tenor
Tokyo Metropolitan Symphony Orchestra
都響スペシャル
2017年7月17日(月・祝)東京芸術劇場コンサートホール
指揮/エリアフ・インバル
コントラルト/アンナ・ラーション
テノール/ダニエル・キルヒ
Subscription Concert No.851 C Series
Fri. 30. March 2018, Tokyo Metropolitan Theatre
Eliahu INBAL, Conductor
Tchaikovsky: Symphony No.6 op.74, "Pathétique" (4th Movement)
Tokyo Metropolitan Symphony Orchestra
第851回 定期演奏会Cシリーズ
2018年3月30日(金)東京芸術劇場コンサートホール
指揮/エリアフ・インバル
予定枚数完売のため販売を終了いたしました。
2019年3月17日(日)14:00開演(13:20開場)
サントリーホール
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指揮/エリアフ・インバル
ブルックナー:交響曲第8番 ハ短調
WAB108(ノヴァーク:第2稿・1890年版)
2019年3月23日(土)15:00開演(14:30開場)
福岡シンフォニーホール(アクロス福岡)
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2019年3月24日(日)14:00開演(13:20開場)
愛知県芸術劇場コンサートホール
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指揮/エリアフ・インバル
チェロ/ガブリエル・リプキン *
ブラームス:悲劇的序曲 op.81
チャイコフスキー:
ロココ風の主題による変奏曲 op.33 *
ショスタコーヴィチ:交響曲第5番 ニ短調 op.47
2019年3月26日(火)19:00開演(18:20開場)
東京文化会館
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[3/26 当日券]S・A席 計50枚程度予定。17時45分より会場にて発売。
※残席がある場合のみ、休憩(19:45頃)より「おそ割」販売予定。休憩時からのご入場で1回券定価の50%OFF。(3/25up)
指揮/エリアフ・インバル
チェロ/ガブリエル・リプキン *
ブラームス:悲劇的序曲 op.81
ブロッホ:ヘブライ狂詩曲《シェロモ》 *
ショスタコーヴィチ:交響曲第5番 ニ短調 op.47
予定枚数完売のため販売を終了いたしました。
2019年3月31日(日)14:00開演(13:20開場)
東京芸術劇場コンサートホール
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指揮/エリアフ・インバル
ピアノ/サリーム・アシュカール
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第1番 ハ長調 op.15
チャイコフスキー:交響曲第5番 ホ短調 op.64