東京都交響楽団

スコアの深読み

第5回

イメージを喚起する音楽
~プロコフィエフの舞台作品と交響曲

  セルゲイ・プロコフィエフ(1891~1953)は、9歳になる年にピアノ伴奏による初めてのオペラ『巨人』(1900)を作曲し、11歳になる年には交響曲ト長調(1902/ただしオーケストレーションまで完了しているのは第1楽章のみ)を手掛けている。そのぐらい、オペラも交響曲もプロコフィエフにとっては身近なものだった。いや、身近なだけではない。後にオペラ『炎の天使』が交響曲第3番に、バレエ《放蕩息子》が交響曲第4番に改作されたように、時に曲種を超えて、素材が共有されることも珍しくなかった。
  プロコフィエフは20世紀初頭のロシアで頭角を現し、ロシア革命の混乱を避けて1918年にアメリカへ渡った。しかし保守的な聴衆から評価を得られず、1922年にヨーロッパへ本拠を移し、主にフランスで活躍。そして1930年代半ばに、ソ連となった祖国へ帰還する。
  本稿では、習作・未完作品を除いた7つの交響曲(とシンフォニエッタ)を起点に舞台作品を時代順に整理しつつ、改めてプロコフィエフの舞台作品と交響曲の関係性を考えてみたい。
 

ロシア時代

  *シンフォニエッタ イ長調 op.5(1909/1914~15/1929)※改訂版はop.48
  ・オペラ『マッダレーナ』op.13(1911~13)※第1幕だけ上演される
  ・スキタイ組曲 op.20(1914~15)※バレエ《アラとロリー》op.20を改作
  ・バレエ《道化師》op.21(1915/1920)
  ・オペラ『賭博師』op.24(1915~17/1927~28)
  *交響曲第1番ニ長調op.25《古典交響曲》(1916~17)

  まずご注目いただきたいのが、演奏される機会の少ないシンフォニエッタ イ長調だ。交響曲第1番《古典交響曲》どころか、op.1となったピアノ・ソナタ第1番ヘ短調に先駆けて1909年に作曲され、op.5が付けられた初期作品である。アレクサンドル・ジロティ(1863~1945)指揮の演奏に合わせて1914~15年に改訂が施されたものの、出版されず。フランス時代の1929年に再度改訂が行われ、今度はop.48が付けられて、やっと出版された。
  作曲のきっかけとなったのは、1909年の初めに聴いたニコライ・リムスキー=コルサコフ(1844~1908)による《ロシアの主題によるシンフォニエッタ》op.31だったようで、単一の主題をひたすら対位法的に展開していく書法がプロコフィエフのシンフォニエッタと酷似している。同じテーマを共有する第1・3・5楽章は、古典的な雰囲気のなかにプロコフィエフらしい近代的な転調を持ち込んでいることから、交響曲第1番《古典交響曲》との共通性を指摘する声もあるが、《古典》の方が圧倒的に演奏頻度は高い。
  むしろ興味深いのは、1930~31年に書かれた、《ピアノのための6つの小品》op.52の第6曲にシンフォニエッタ第4楽章〈スケルツォ〉が転用されている点だ。《6つの小品》の他の楽曲は、バレエ《放蕩息子》(1928~29)や弦楽四重奏曲第1番変ロ短調op.50(1930)などから転用した楽曲だけで構成されている(後述するが、《放蕩息子》からの転用は、正確には交響曲第4番からの転用)。シンフォニエッタは最終版以前のヴァージョンが公開されていないため、改訂でどの程度の手が入っているか不明なのだが、仮に主題などが1909年に書かれたままだとしたら、1930年頃に書かれた音楽と1909年に書かれた音楽が、違和感なく横並びになっているのは面白い。同様のことは、交響曲第1番《古典交響曲》の第3楽章〈ガヴォット〉が、ほぼ20年後に書かれたバレエ《ロメオとジュリエット》に違和感なく転用されている点にも指摘することができる。

アメリカ~フランス時代

  アメリカ時代
  ・オペラ『3つのオレンジへの恋』op.33(1919)

  フランス時代
  *交響曲第2番 ニ短調 op.40(1924~25)
  ・バレエ《鋼鉄の歩み》op.41(1925~26)
  ・オペラ『炎の天使』op.37(1919~23/1926~27)
  *交響曲第3番 ハ短調 op.44(1928)
  ・バレエ《放蕩息子》op.46(1928~29)
  *交響曲第4番 ハ長調 op.47(1929~30/1947)※改訂版はop.112
  ・バレエ《ボリステーヌの岸辺で》op.51(1930~31)

  フランス時代に書かれた、プロコフィエフの生涯で最も初演が失敗した作品といえる交響曲第2番op.40。この作品を書く時にプロコフィエフの頭のなかにあったのは「鋼と鉄 iron and steel」というキーワードだったという。実は、次の作品番号にあたるのが、ロシア・バレエ団からの委嘱作、バレエ《鋼鉄の歩み The Steel Step》op.41だった。交響曲第2番より幾分響きが柔らかくなっているものの、同じ音形が登場したりと、前作との共通点はタイトルだけではない。
  そして続く交響曲第3番は、前述したようにオペラ『炎の天使』の素材を転用した作品として知られている。実は『炎の天使』には、アメリカ時代に構想し、完成することのなかった《白の四重奏 white quartet》(ピアノ協奏曲第3番の第3楽章にも素材が転用されている)の素材も用いられ、『炎の天使』の第5幕冒頭になり、それは交響曲第3番では第2楽章に転用されている。なお第1楽章は第3幕を中心に再構成(クライマックスは間奏曲の部分を丸々転用している)、第3楽章は第2幕の中盤、第4楽章は同じ第2幕の終盤を中心に構成されている。
  交響曲第4番も既に述べたようにバレエ《放蕩息子》の素材を用いた作品である。ただし第3番の場合と異なり、舞台作品の音楽の流れをそのまま活かしたのは第3楽章のスケルツォのみと言ってよく(そのスケルツォ楽章にも変奏などが加えられており、このヴァージョンが前述した《ピアノのための6つの小品》に転用されている)、それ以外の第1・2・4楽章はバレエの素材をもとに再構成――もとい、ほとんど作曲され直したに近い状況である。

ソ連時代

  ・バレエ《ロメオとジュリエット》op.64(1935~36)
  ・オペラ『セミョーン・コトコ』op.81(1939)
  ・オペラ『修道院での婚約』op.86(1940~41)
  ・バレエ《シンデレラ》op.87(1940~44)
  *交響曲第5番 変ロ長調 op.100(1944)
  ・オペラ『戦争と平和』op.91(1941~43/1946~52)
  *交響曲第6番 変ホ短調 op.111(1945~47)
  ・オペラ『真の男の物語』op.117(1947~48)
  *交響曲第7番 嬰ハ短調 op.131《青春》(1951~52)
  ・バレエ《石の花》op.118(1948~53)

  ソ連となった祖国ロシアに舞い戻ったプロコフィエフは、交響曲における最高傑作とされることの多い第5番を、戦時中の1944年に書き上げた。この第1楽章との強い繋がりを感じさせるのが、プロコフィエフがその生涯で最も時間と手間をかけた作品であるオペラ『戦争と平和』の序曲である。どちらも同じ変ロ長調であり、転調や和音の用い方、対位法的な書法などに明らかな近似性がある。
  英雄的な性格をもつ第5番の兄弟作にあたる第6番は、戦争の悲劇的な側面をテーマにした作品である。エフゲニー・ムラヴィンスキー(1903~88)による初演こそ成功を収めたものの、プロコフィエフの交響曲のなかで最も難解な作品と受け取られてきた。この交響曲は他のものほどには具体的な舞台作品と強い関連性はもっていないのだが、長らく音楽評論家によって、第2楽章の主部で登場する半音階的な叙情的旋律はバレエ《ロメオとジュリエット》の愛のテーマに、第3楽章の明朗さは子どものための物語《ピーターと狼》op.67(1936)に近しいものとして語られてきた。そうすることで、決してとっつきにくい作品ではないと語ろうとしてきたわけだ。
  最後の交響曲となった第7番もまた具体的な舞台作品との繋がりはないようだが、第6番よりも露骨に舞台作品で頻繁にみられる書法が登場する。とりわけ顕著なのが、第2楽章以外に現れる、ハープ、ピアノ、弦楽器の内声などによって細かい分散和音を刻む上に叙情的な旋律を乗せていくという書き方で、言うまでもなくこれはバレエ作品の感動的な場面におけるプロコフィエフの常套手段である。そして第2楽章のワルツもまた、プロコフィエフの舞台作品を語る上で欠かせない要素だ。本作が初演されてからというもの、ドミトリー・カバレフスキー(1904~87)をはじめ、少なくない人々が「単純すぎる」ことに難色を示してきたわけだが、これは晩年のプロコフィエフが衰えたということでも、子ども向けに書こうとした作品であるということでもなく、ソ連時代の舞台作品に作風を寄せたという見方もできる。

  今回は対象外としたが、劇付随音楽や映画音楽なども含めると、その生涯で舞台的な作品の創作に費やした時間の長さはとてつもなく、更には多くが組曲化されてオーケストラ単独でも演奏できるようにされていたりと、プロコフィエフが交響曲以上に熱量をもって取り組み続けたのが舞台作品であった。交響曲でも何らかのイメージを喚起するような音楽が多いのは、彼が本質的には舞台人であったからなのであろう。

プロコフィエフ:交響曲第7番 第1楽章 第55~56小節
プロコフィエフ:交響曲第7番 第1楽章 第55~56小節
  第1楽章提示部、第2主題のクライマックス部分(オクターヴとアーティキュレーションの違いを無視した簡略譜)。ハープ、ピアノ、弦楽器の内声による細かい分散和音に乗って、叙情的な旋律が情感深く歌われる。プロコフィエフはバレエ作品における得意な書法を交響曲第7番でも用いた。