オーケストラと共に~感謝の日々
2009年9月の入団以来、長きにわたり当団の活動に大きな貢献を果たされてきたソロ・コンサートマスター 四方恭子が2022年度シーズン(2023年3月末)をもって勇退します。 都響ソロ・コンサートマスターとして迎える当団主催公演のラストステージは、3月27日 (月)3月28日 (火) に開催する「都響スペシャル【リゲティの秘密-生誕100年記念-】」を予定しております。
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インタビュー
ききて・構成/国塩哲紀(都響芸術主幹)
(2023年1月13日/東京文化会館にて)四方恭子(都響ソロ・コンサートマスター)
と国塩哲紀(都響芸術主幹)オーケストラと共に—感謝の日々
ケルン放送響(現WDR響)でコンサートマスター(1987 ~ 90年)そして第1コンサートマスター(1990 ~ 003年)を務めた四方恭子さんは、帰国後、2009年9月に都響ソロ・ コンサートマスターに就任。2023年3月に勇退を迎えるにあたって、これまでの歩みや趣味、音楽仲間に伝えたいことなど、お話を伺いました。
関西人のアイデンティティ
数年前の楽団紹介冊子の楽員紹介ページに、マイブームは「ザ・ぼんち」と書いてあって衝撃を受けたのですが(笑)、漫才がお好きなんですね?
大好きです。昨年(2022年)のM-1ももちろん観ました(笑)。さや香が面白かったぁー! 優勝したウエストランドも面白かったんですけど、さや香はすごいと思って。審査はもっと競ると思っていたので、結果は意外でした。私はさや香に1位をあげたかった。
漫才はいつごろから熱心に観るように?
日本に帰ってきてからですね。オール阪神・巨人の結成30周年記念公演のチケットを買って両親と一緒に観に行ったり、友達と一緒にbaseよしもと(※1)に若手芸人を観に行ったりしました。そんな時、私がすぐに笑うので、笑いのレベルが低いって言われました(笑)。とにかくみんなと一緒に笑えるのが嬉しくて。もちろんドイツでもスタンドアップコメディのようなものはありましたけど、何が面白いのかよくわからなかったり……。日本に帰って、関西弁を聞いてドッと笑えて、それはもう解放された気分になりました(笑)。
※1 大阪市にあったお笑いの劇場。2011年に新劇場へ移転。やっぱり自分は関西人だなと。
思いましたね。
カープファン
エリアフ・インバル指揮 モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲第3番
ヴァイオリン/四方恭子
(第706回定期演奏会Aシリーズ/2010年11月29日/東京文化会館)広島カープのファンと伺っていますが、神戸生まれの四方さんが、どのようなきっかけで、いつ頃からカープファンになったのでしょうか?
カープファンになったのは、広島に住んだことのある夫の影響です。2005 ~ 6年頃からでしょうか。
私は自分では何のスポーツもしませんが、昔から両親の影響でスポーツ観戦は好きでした。観戦し始めるとすぐにどちらかを応援してしまう、わかりやすいタイプです(笑)。そんなわけで、夫と知り合ってあっという間にカープファンになりました。マツダスタジアムにも何度か出かけましたが、アフィニス夏の音楽祭(※2)を広島で開催した時に、関係者何人かで応援に行ったのは楽しい思い出です。都響には、山本修さん(コントラバス)や山野克朗さん(ステージマネージャー)ら、私よりもっと広島ファン歴の長いメンバーがいて、とても嬉しいんです。いつも音楽の話よりカープ話で盛り上がります(笑)。
カープは何と言っても、チームを支えているのが広島市民だというところが素晴らしいです。都響も、東京都のオーケストラとして、都民のみなさんにますますファンを増やしたいですね。
※2 国内プロオーケストラ・メンバーのためのセミナー音楽祭。四方さんは2002~18年に音楽監督を務めた。ほかにお好きなものやご趣味などは。
ドイツにいた時はよく映画を観に行きました。日本に帰ってきてからは機会が減ったのですが、このお正月は『ゴッドファーザー』三部作―なんとなく今まで避けていたのですが―を観て、素晴らしく面白かったです。
あと、今は弱くなってしまいましたけど、お酒もみんなで飲むのが大好きで、ドイツ時代もビールを、ケルンですからケルシュ(※3)をたくさん飲みました。
※3 ケルン地方の伝統的なビール。コンサートマスターとして
ご自身で思うご自身の短所は何ですか?
思い切りが悪くて、よくうじうじ悩みます。おっとりしているとよく言われるのですが、実は小心者でこわがりで、想定外のことが起こると冷静さを保てないし。それに、これは気をつけるようにしていますが、人に言われた些細なことも気にしてしまう……もう、短所だらけです(笑)。
意外なお答えばかりでこちらが動揺しています(笑)。では、そんな四方さんの、コンサートマスター人生について伺います。ヴァイオリンを学び始めて、コンサートマスターというポジションがあるということを最初に意識したのはいつですか?
小学校高学年の頃、相愛大学附属音楽教室のオーケストラに参加した時に、年上のお姉さんお兄さんがすっと立ってチューニングのAを弾いているのを見て、かっこいいなと思ったのが最初ですね。私もあれがやりたいなと(笑)。
ケルン放送響(現WDR響)のコンサートマスターのオーディションを受けたきっかけは?
フライブルク音楽大学で師事していたヴォルフガング・マルシュナー先生が、ケルン放送響のコンサートマスターだったこともありますし、先生にドイツのオーケストラに入りたいと相談したら、「南ドイツで過ごしてきたのだから、あまり北のほうではなく、ケルンぐらいまでが良いと思うよ」とおっしゃって、それでちょうどコンサートマスターが空席だったケルン放送響のオーディションを受けました。
ケルン時代の思い出をいくつかお聞かせくださいますか。
今でもよく覚えているのは、リスボンに演奏旅行に行った時、空港からホテルに向かうバスの中に楽器を置き忘れてしまったことです。しかも放送局から貸与されている楽器でしたから、もう大変で……。とにかくいろいろあった末に楽器は無事に戻ってきて、公演には間に合ったのですが、生きた心地がしませんでした。
共演した指揮者では、クルト・ザンデルリンク、ギュンター・ヴァント、アンドレ・プレヴィンが特に印象に残っています。たとえばザンデルリンクはチェロとコントラバスの響きへの要求が独特で、オーケストラ全体の音が本当に柔らかく変化して、まるで別のオーケストラになったようでした。
それから入団当初、第1コンサートマスターに一つ空席があったので、よくゲスト・コンサートマスターがいらっしゃって、その隣で弾かせていただいたので、いろいろな方と知り合いになれたし、いろいろなタイプのコンサートマスターがいるんだなということを実感できました。都響ソロ・コンサートマスターに就任
小泉和裕指揮 モーツァルト:ヴァイオリン、ヴィオラのための協奏交響曲
ヴァイオリン/四方恭子 ヴィオラ/鈴木学
(プロムナードコンサートNo.345/2011年7月10日/サントリーホール)2003年に日本に拠点を移されました。都響のソロ・コンサートマスターに就任したいきさつは。
ある日、矢部さんから電話をもらって、「会ってお話できませんか」と。そして(山本)友重さんとお二人でいらして、「コンサートマスターになってくれませんか」とおっしゃってくださったんです。
思えば、学生時代に受けたNHK毎日音楽コンクール(現・日本音楽コンクール)の本選で一緒に演奏してくれたのが都響で、それが最初の出会いでしたね。もちろんその後も何度か呼んでくださったこともありますし、なにしろ東京藝大に通っていましたから、上野にあるオーケストラということで、もともと親しみを感じていました。だから、そのコンサートマスターにというお話はとても嬉しかったです。そうそう、そのお話を聞いた時、私は一瞬、矢部さんが辞めちゃうのかと思って、それだったらすごく大変だと思ったのですが、そうではなかったのでホッとしたのを覚えています。コンサートマスターにはどのような素養が求められると思いますか?
耳が良いとか、全体を見渡せているとか、うまく行かなかった時の原因を見極められるか、というようなことが大切だと思うのですが、先ほどの短所も含めて、私はそういうのが全然なくて、ダメだなあと思い続けて今日に至っています(笑)。
音楽的なこと以外では、やはり、みんなに信頼してもらえる存在ではありたいなと思います。でもそれは、コンサートマスターに限らず音楽家なら誰でも必要なことで、オーケストラでも室内楽でも、人と一緒に演奏する以上はとても重要なことだと思います。まわりの人と一緒にやれる、そしてまわりの人が一緒にやりたいと思ってくれるような、少なくとも私はそういう風にしかできなかったし、そうしてきたつもりです。もちろん、強烈なリーダータイプのコンサートマスターもありだと思いますけど。長くコンサートマスターを続けてきて、ご自身の中で変化を感じていることはありますか?
都響に入った頃、なにしろ演奏会がたくさんあるから、何かあっても皆さんいちいち気にせず、励ましてくれたりして、そういう前向きな雰囲気が自分にはすごく新鮮でした。ドイツでは、何か演奏上の不満があると、なぜもっと指揮者に言わないんだ! って私が責められたりして、割といつも重たい感じだったので。みんなで前に進みましょうよ!という都響のおおらかで明るい雰囲気はとてもいいなと思いました。
そうして私自身が歳を重ねてくると、今度は、みんなができるだけストレスなく、弾きやすいように、といっそう心がけるようになりましたし、まじめすぎて思い詰める楽員がいたりすると、「そんな風に考えるよりも長く元気で弾くことのほうが大事よ」って言ってあげたい気持ちが、より強く湧いてくるようになりました。もう自分の子どものような年齢の楽員がたくさんいて、そういう人たちが変に悩まないで、健康で楽しく演奏を続けてほしいと願うばかりです。都響、あるいはオーケストラを取り巻く環境で変化を感じることは?
都響は、昔も今も素晴らしいプレーヤーばかりで、指揮者任せにしないで、自分たちできちんとアンサンブルしようという気風は素晴らしいし、それがどんどん磨かれていると思います。
それから最近は、オーケストラに入りたいという学生さんたちが昔に比べてずいぶん増えましたね。しかも子どもの頃からそう思っていた人も多くて。だから今、日本のオーケストラの若い奏者たちの演奏レベルは高くて、それが日本のオーケストラ全体のレベルアップにつながっていますよね。肩書のない人生へ
ガエタノ・デスピノーサ指揮 ハイドン:協奏交響曲
ヴァイオリン/四方恭子 チェロ/田中雅弘
オーボエ/広田智之 ファゴット/岡本正之
(プロムナードコンサートNo.357/2014年2月8日/サントリーホール)都響ソロ・コンサートマスターも、京都市立芸術大学教授もこの3月に退任なさって、これからはどんな生活になりそうですか?
あまり人に気を遣わないでいい生活ができそうです(笑)。自由に、どんなふうに過ごせるかな……。私、ピアノを持っていなかったんですが、最近やっと電子ピアノを買いまして、いろいろ弾けるようになったらいいなと思ったりしています。
都響の仲間にお言葉をお願いします。
もう、感謝の一言です。都響の皆さんには本当にいろいろと教えてもらいました。矢部さんと友重さんが私に声をかけてくれた時、「若い楽員たちにご自身の経験を教えてください」とおっしゃっていたのですが、今となっては私が一番勉強させてもらったと思っています。皆さんと多くの素晴らしい演奏会をご一緒できて、とても幸せでした。本当にありがとうございます。
最後のご出演が、図らずも稀にみる変則的プログラム(リゲティとバルトーク)の回になり、恐縮至極です。
それもまた楽団員人生ですから(笑)。面白いじゃないですか。
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四方恭子よりメッセージ
© T.Tairadate -
大野和士よりメッセージ
© Herbie Yamaguchi -
四方恭子よりビデオメッセージ
- 出演
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指揮/ジェイムズ・デプリースト
ヴァイオリン/四方恭子 - 曲目
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ベルク:ヴァイオリン協奏曲 《ある天使の思い出に》
マーラー:交響曲第1番 ニ長調 《巨人》 - 出演
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指揮/アンドリュー・リットン
ピアノ/パウル・バドゥラ=スコダ - 曲目
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ストラヴィンスキー:サーカス・ポルカ
モーツァルト:ピアノ協奏曲第24番 ハ短調 K.491
ストラヴィンスキー:バレエ音楽《カルタ遊び》
ストラヴィンスキー:バレエ組曲《火の鳥》(1945年版) - 出演
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指揮/エリアフ・インバル
ヴァイオリン/四方恭子 - 曲目
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モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲第3番 ト長調 K.216
ブルックナー:交響曲第6番 イ長調 WAB106 - 出演
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指揮/小泉和裕
ヴァイオリン/四方恭子 ヴィオラ/鈴木 学 - 曲目
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シューベルト:交響曲第7番 ロ短調 D759 《未完成》
モーツァルト: ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲 変ホ長調 K.364
シューマン: 交響曲第1番 変ロ長調 op.38 《春》 - 出演
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指揮/梅田俊明
コントラバス/山本 修 - 曲目
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ムソルグスキー(リムスキー=コルサコフ編曲):交響詩《はげ山の一夜》》
クーセヴィツキー:コントラバス協奏曲 嬰ヘ短調
リムスキー=コルサコフ:交響組曲《シェヘラザード》 op.35(ヴァイオリン独奏/四方恭子) - 出演
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指揮/ガエタノ・デスピノーサ
ヴァイオリン/四方恭子 チェロ/田中雅弘
オーボエ/広田智之 ファゴット/岡本正之
- 曲目
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ブラームス:ハイドンの主題による変奏曲 op.56a
ハイドン:協奏交響曲 変ロ長調 Hob.I:105
ベートーヴェン:交響曲第5番 ハ短調 op.67 《運命》 - 出演
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指揮/大野和士
ヴァイオリン&声/パトリツィア・コパチンスカヤ*/**
合唱/栗友会合唱団*** - 曲目
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【リゲティの秘密-生誕100年記念-】
リゲティ(アブラハムセン編曲):虹~ピアノのための練習曲集第1巻より[日本初演]
リゲティ:ヴァイオリン協奏曲*
バルトーク:《中国の不思議な役人》op.19 Sz.73(全曲)***
リゲティ:マカーブルの秘密**
メッセージ
映像
主な共演歴
第598回 定期演奏会Aシリーズ 2004年11/8(月)東京文化会館
第599回 定期演奏会Bシリーズ 2004年11/9(火)サントリーホール
【四方恭子 都響ソロ・コンサートマスター就任披露演奏会】
第684回 定期演奏会Bシリーズ 2009年9/29(火)サントリーホール
第685回 定期演奏会Aシリーズ 2009年9/30(水)東京文化会館
第706回 定期演奏会Aシリーズ 2010年11/29(月)東京文化会館
第707回 定期演奏会Bシリーズ 2010年11/30(火)サントリーホール
プロムナードコンサートNo.345 2011年7/10(日)サントリーホール
プロムナードコンサートNo.349 2012年6/23(土)サントリーホール
プロムナードコンサートNo.357 2014年2/8(土)サントリーホール
最終公演情報
第971回定期演奏会Bシリーズ
2023年3月27日(月) 19:00開演(18:00開場)サントリーホール
都響スペシャル(3/28)
2023年3月28日(火) 19:00開演(18:00開場)サントリーホール