店村眞積
ヴィオラ特任首席奏者勇退記念
Mazumi TANAMURA

店村眞積

店村眞積よりメッセージ

 都響でお世話になってあっという間の12年半でした。初めは65歳まで演奏出来ればと思っていたのですが気がつけば70代半ばに入り日本のオーケストラでここまで弾かせて頂けたという事には感謝の気持ちしかありません。
 優秀で勤勉な演奏家の集まりの都響で弾く事に誇りと喜びを感じていました。オーケストラのメンバーが自分より遥か若い世代ではあるが仕事というよりも、一緒にアンサンブルするという事に新鮮さと充実感を覚え、刺激も沢山頂きました。私にとってとても居心地の良いところでした。
 リハーサル前の広田さん池松さん平田さんといった釣り仲間との談笑もなかなか楽しいものでしたしエネルギーの元にもなっていました。
 この素敵な都響をこれからも応援して下さい。どうぞ宜しくお願い致します。 

  • インタビュー

    聞き手:風戸星那(TOKYO MX)
    (地上波9ch TOKYO MXで放送中『 アンコール!都響』インタビューより)

    これからもヴィオラと共に

     フィレンツェ市立歌劇場首席ヴィオラ奏者、読響ソロ・ヴィオリスト、N響ソロ首席ヴィオラ奏者を歴任、2011年6月1日から都響ヴィオラ特任首席奏者を務めた店村眞積さん。日本を代表する弦楽器奏者として活躍してきた店村さんは2024年3月に勇退、翌4月のヴィオラ名誉首席奏者 称号授与を機に、TOKYO MX『アンコール! 都響』でインタビューを受け、これまでの歩みを振り返りました。『月刊都響』ではその模様を再構成してお届けします。 ( まとめ/友部衆樹)

    思い出
    ©大窪道治
    ブラームス:交響曲第1番
    指揮/小澤征爾 サイトウ・キネン・オーケストラ
    (2010年12月14日/ニューヨーク・カーネギーホール)

    長らく第一線でご活躍され、いろいろなオーケストラで首席奏者を務めた店村さんですが、今までのコンサートで記憶に残っていることを教えていただけますか?

     一番記憶に残っているというか、新鮮なショックを覚えたのは、カルロ・マリア・ジュリーニ。彼は音楽家としてすごく純粋で、オーケストラのコントロールが素晴らしく、皆が経験したことのないような音を引きだす。われわれ楽員が本当に喜んで弾くことができて、皆で一つのものを作り、それが良い演奏になる。そういう経験ができたことは、すごく身体に残っています。話が古いと言われればそれまでだし、もちろん今でも素晴らしい指揮者はいらっしゃるわけですが。
     最近だと、サイトウ・キネン・オーケストラでご一緒した小澤征爾さん。とても優しい人間性というのかな、それが音に出てくる。彼は指揮台に居るだけで、オーケストラに力を与える。今さら言うまでもなく、日本が生んだ世界屈指の指揮者ですよね。

    ヴィオラと共に
    6歳ころ

    ヴィオラを続けてきたことについて、何かモットーをお持ちですか?

     実はヴィオラを始めた時、この楽器は好きじゃなかったんです。というより、ここまで入れ込むとは思わなかったですね。小さい時からヴァイオリンを勉強してきて、いろいろなコンクールを受けて上を目指しましたが、自分の技量の不足を目の当たりにすることが多かった。もう一度勉強し直さなければ、と思った時に、果たしてイチからヴァイオリンをやり直すことができるだろうか、と迷いがあって。それなら楽器を変えてみようかと。いつでもヴァイオリンに戻れるだろう、という気持ちでヴィオラを始めました。
     もう一つのきっかけは、学生時代に齋藤秀雄先生と顔を合わせるたびに「君はヴィオラをやりなさい」と言われたこと。それに反発もしたんですけどね。
     僕がヴィオラに転向したのは、年齢的にちょっと遅かった。だから、もう少し早めに始めていれば、もっといろいろなことができたのに、と思うこともあります。

    ヴィオラを止めたくなったことは?

     それはないです。やればやるほど面白くなりましたから。オーケストラで、あるいは室内楽やソロでヴィオラを弾くと、いろいろなことを表現できる。楽器の魅力がどんどん増えていきました。だから、ヴァイオリンに戻ろうとは全く考えなかったですね。ただヴァイオリンを勉強していた時期に、「この曲を弾きたい」と思ったまま果たせなかったものが何曲かあって、それはちょっと心残りですね。

    ヴィオラの魅力を改めてお聞かせいただけますか。

     オーケストラでも室内楽でも同じですが、ヴァイオリンと低弦の真ん中で、上下を支えながら、音楽の方向性をコントロールできること。ヴィオラは昔から、いぶし銀とか縁の下の力持ちとか地味なイメージがあって、実際そういう面がなきにしもあらずですが、全体の流れを作って方向性を見せていくのは、もう絶対にヴィオラです。オーケストラでも室内楽でも重要な役目を果たしている。でも、あまり評価されない。僕らはそれが残念で、何とか意識を変えようと思ってこれまでやってきました。

    若手へのメッセージ

    演奏を聴かせていただくと、店村さんのパワフルな気概をいつも感じます。若者へ伝えたいことは?

     もっと積極的にどんどん自分を表現してほしい。具体的にどういう風にやるのか、それは自分で考えて勉強してください、としか言えないかな。僕らも若いころは知らないことが多くて、いろいろアドヴァイスをいただいたり、自分でも研究したりして、道を開いてきた。それは今も昔も変わらないと思います。
     今の若者は優秀ですよ。音楽の知識もありますし、想像を絶するくらい技量が上がっています。僕らの世代は弾き方が全然分からないところから始めて、それでも何とか探して技術を見つけて、若手の指導もしてきました。その意味が少しはあったのかなと。

    今の若者に足りないものは?

     いや、全然ないと思います。もしも言うことがあるとすれば、どれだけ自分の時間を持つか。今は情報が多過ぎて、音楽や楽器について、一人で考えて何かを求めていく時間が少ないんじゃないかと。楽譜を手に入れたら、それを大事にして初めから1音1音を深く読んでいく。録音を聴いてもいいけれど、誰の演奏を聴くのか、自分はどういう風に弾きたいのか。自分の力は大したことがないかもしれないけれど、まずは一人で探って演奏を作っていく。そういう方向に進んでほしいなと思います。誰の演奏か分からないような録音を聴いて、それを真似して弾くみたいなことをすると、あまり良い結果は出ませんから。

    都響
    ベルリオーズ:交響曲《イタリアのハロルド》
    指揮/小林研一郎 ヴィオラ/店村眞積
    (©堀田力丸/第744回 A定期/2012年11月19日/東京文化会館)
    R. シュトラウス:交響詩《ドン・キホーテ》
    指揮/小泉和裕 ヴィオラ/店村眞積 チェロ/古川展生
    (©藤本文昭/プロムナードコンサートNo.367/2016年3月19日/サントリーホール)

    都響との出会いについて。

     僕がオーケストラで弾き始めたのは27歳の終わりから。フィレンツェ市立歌劇場のオーケストラ(フィレンツェ五月音楽祭管弦楽団)でした。当時からずっと、自分がいつもトライしていくために、決まったワクに入らないことを考えていて。僕はオーケストラの正団員になったことがないんですよ。1年ごとの契約で、自分が好きな立場を選びたい。
     日本へ戻ってきて、その後は読響、N響、都響でお世話になりました。偶然そうなったのではなく、実は僕が目指していたというか。東京を代表するオーケストラが3団体あるとすれば、3団体全部で弾いてみたい。具体的にはN響の契約が終わるころ、オーケストラの楽員としてもう少し演奏を続けたいと考えた時に、都響で弾きたいなと。もちろん都響の演奏は以前から聴いていて、素晴らしい演奏家が集まっている魅力的なオーケストラだと思っていましたから。それで打診したところ、受け入れていただけた。

    実際に入ってみてのご感想は。

     本当に真面目で勤勉な、素晴らしいオーケストラだと思います。僕が入ったころから年月を重ねて、若々しいエネルギーを保ったままさらに熟してきた感覚があります。

    リフレッシュ方法

    お気に入りのリフレッシュ方法を教えてください。

    店村眞積さん所蔵の鳴滝砥石(京都 梅ケ畑産出)
    左から/奥殿、大突カラス、中山

     僕はリフレッシュする必要は全然感じないんだけど、休みの日はあるわけで、どうやって時間を使うか。僕は多趣味で、ちょっと凝り過ぎのところがあるんですね。
     釣りに行く計画を立てたり、その道具を揃えたり。楽器の弓の毛替えは、専門の楽器店でやってもらう人もいますが、僕は自分でやります。毛を選んだり、縒よ ったり、その道具も揃えました。毛替えは、刃物の切れ味が良くないとできないので、研ぐための砥石にも凝りました。
     砥石の話を始めると終わらなくなっちゃう(笑)。良い砥石を求めて山や川を見に行ったりもしました。なぜそこまでしたのかというと、僕の故郷の京都に良い砥石が採れる場所があるからです(※)。

    ※一般に流通しているのはほとんど人造砥石(酸化アルミニウムなどに添加物を加えて固めたもの)で、岩から切り出した天然砥石は貴重。品質の極めて高い原石は世界中でも京都北部でしか採れない。

    都響ファンの皆さんへ

    都響ファンの皆さんへのメッセージをお願いします。

     2011年6月に入団してから12年余り、ずっとお世話になりました。本当に皆さんの応援とご協力があったからこそ、今まで弾いてこられたのだと思います。ただ、これで僕が楽器を止めるわけではないですし、まだまだいろいろな方面で弾いていきたい。そして、これからも都響との関係を続けていけたら良いなと考えています。今後もこの素晴らしい都響を応援してください。ありがとうございました。



    ©Rikimaru Hotta
  • メッセージ

    • 大野和士よりメッセージ

      © Rikimaru Hotta
    • 小泉和裕よりメッセージ

      © Prague Spring - Ivan Malý

    映像

    • 店村眞積よりビデオメッセージ

    主な共演歴

    第744回 定期演奏会Aシリーズ 2012年11/19(月)東京文化会館

    出演

    指揮/小林研一郎
    ヴィオラ/店村眞積*

    曲目

    ベルリオーズ:交響曲《イタリアのハロルド》 op.16*
    ベートーヴェン:交響曲第6番 ヘ長調 op.68 《田園》


    プロムナードコンサートNo.367 2016年3/19(土)サントリーホール

    出演

    指揮/小泉和裕
    ヴィオラ/店村眞積 *
    チェロ/古川展生 *

    曲目

    ベートーヴェン:交響曲第2番 ニ長調 op.36
    R.シュトラウス:交響詩《ドン・キホーテ》 op.35 *

    放送・公演情報

    TOKYO MX2『アンコール!都響』内「都響の横顔」

    2024年3月16日(土) 15:00~放送
    2024年4月6日(土)15:00~再放送


    東京・春・⾳楽祭2024
    都響メンバーによる室内楽 ヴィオラ・アンサンブル

    2024年3月28日(木) 19:00開演(18:30開場)東京⽂化会館 ⼩ホール

    出演

    ヴィオラ/店村眞積、鈴⽊ 学、篠﨑友美、⽯⽥紗樹、村⽥恵⼦、⼩島綾⼦、⼩林明⼦、デイヴィッド・メイソン、冨永悠紀⼦、萩⾕⾦太郎、林 康夫、樋⼝雅世

    曲目

    モーツァルト:歌劇『魔笛』より(ヴィオラ四重奏版)
    ボウエン:4つのヴィオラのためのファンタジー
    A.ロッラ:ディヴェルティメント
    野平⼀郎:4つのヴィオラのためのシャコンヌ