7/23(火)都響スペシャル、7/24(水)定期A Hiroshi IKEMATSU

Jakub HRŮŠA

アラン・ギルバート × 都響トップ・プレイヤーが妙技を振るう
豪華プログラム!

 都響の名手たちの妙技を楽しめるプログラムです。フィンランドが誇る人気作曲家マグヌス・リンドベルイの《EXPO》は、ギルバートのニューヨーク・フィル音楽監督就任を記念して書かれた演奏会用序曲。輝かしく重量感のあるサウンドがコンサートの幕開けを華やかに飾ります。エストニアを代表する作曲家エドゥアルド・トゥビンのコントラバス協奏曲は、今やこの楽器の重要レパートリーであり、聴きごたえも充分な傑作。都響が誇る首席コントラバス奏者池松宏が、ギルバートの指揮を得ていっそう意欲を燃やしています。後半は、華麗なオーケストレーションはリンドベルイやトゥビンの先達と言えるリムスキー=コルサコフの代表作《シェヘラザード》。コンサートマスターのソロをはじめ、管楽器のソロもふんだんな、まさに全編聴きどころの名曲です。

  • 池松 宏
    トゥビン
    コントラバス協奏曲を語る

    取材・文/友部衆樹

    © T.Tairadate

     7月23日都響スペシャル、7月24日A定期にソリストとして登場、知られざる傑作であるトゥビンのコントラバス協奏曲を弾く池松宏(都響首席コントラバス奏者)。演奏者から見た曲の魅力を伺いました。

    「作曲家」が書いたコントラバス協奏曲

     この曲の一番の特徴は、まず(専業)作曲家の作品であること。コントラバスの曲は、演奏者が自分で書いた作品が圧倒的に多い。協奏曲で知られているのはディッタースドルフ(1739~99)、ドラゴネッティ(1763~1846)、ボッテシーニ(1822~89)、クーセヴィツキー(1874~1951)といった人たちの作品ですが、このうちディッタースドルフ以外はコントラバス奏者が書いた曲です。そのくらい、コントラバスをソロ楽器として扱うのは難しいのでしょう。
     コントラバス・ソナタを書いた有名作曲家というと、ヒンデミット(1895~1963)が唯一。ただ、彼はオーケストラのスコアに出てくるすべての楽器に対してソナタを書いたので、あまりコントラバスへの思い入れは感じられません。ほかには、ベートーヴェンもブラームスもR. シュトラウスもコントラバス協奏曲やソナタを書かなかった。演奏者が自分で書くと、やはり技巧を凝らすなど楽器を目立たせる方向になりがちです。トゥビン(1905~82)の作品は「作曲家」が書いた貴重なコントラバス協奏曲で、純粋に音楽的によくできた曲だと思います。

    トゥビンのコントラバス協奏曲

     実演で難しいのは、オーケストラとのバランス。コントラバスは不思議な楽器で、例えば弦楽アンサンブルに1人加わると、全体の音が全く違ってきますし、コントラバス自体の音もよく聴こえる。ところがソロになった瞬間に、いきなり聴こえなくなる。音の輪郭が丸くて他の楽器と溶け合いやすいので。
     ですから、7月の演奏会ではソロにPAを入れる予定です。PAを入れた上で、本当に楽器が「鳴る」ように弾かないとソロが聴こえないので、その意味では大変な曲です。トゥビンの協奏曲は2管編成ですが、トロンボーンやテューバがあり、ハープまで入っていて、コントラバスの伴奏としては大編成です。スコアは、ソロがある部分はオーケストラが薄く、ソロがないトゥッティ部分は分厚く、メリハリをつけて書かれていますが、それでもコントラバス・ソロを聴かせるのはキツいところがあります。
     曲は20分ほどの単一楽章ですが、実際には第1楽章(アレグロ・コン・モート)、第2楽章(アンダンテ・ソステヌート)、第3楽章(アレグロ・ノン・トロッポ、ポーコ・マルチアーレ)の3つの部分から成っていて、第3楽章の前にカデンツァがあります。
     第1楽章の冒頭がとても印象的。弦楽合奏のザクザクとした音形で始まり、そこにコントラバス・ソロが息の長い主題でドーンと加わる。ここは、戦場で小銃や機関銃がバリバリ鳴っているところに、戦車が登場するイメージがあります。
     トゥビンの祖国エストニアは、歴史的に様々な国に蹂躙され、第二次世界大戦ではナチスやソ連に占領され、最終的にソ連に併合されてしまう。その結果、トゥビンはスウェーデンへ亡命して、亡くなるまでストックホルムを拠点にせざるを得なかった。そういう背景を感じますね。
     協奏曲の冒頭で、コントラバスが低い音域で弾き始めるのはとても珍しい。この協奏曲では楽器の高音域から低音域まで幅広く、しかも効果的に書かれているので、それも魅力です。
     第2楽章は抒情的な哀歌。とてもきれいな楽章で、コントラバスが歌いやすい音域を上手く使い、弾いていて気持ちがいい。そして長大なカデンツァへ入ります。重音も多く、技巧的にも難しいのですが、とても演奏効果が上がるように書かれています。
     テンポが上がると躍動的な第3楽章。ここも、ソロは低い音域で、しかもピアニシモで始まります。コントラバス協奏曲では、高音域で力強く弾くことを要求されることが多いので、大胆な書法ですね。
     コーダの直前に4度重音のグリッサンドがあり、2オクターヴ近くを一気に駆け下ります。2年前(2022年7月22、23日)に紀尾井ホール室内管弦楽団と演奏した際、ここはトレモロにしたのですが、効果が今ひとつでした。CDなどを聴くと、トレモロにしている人とそうでない人が両方いて、正解はなさそうなので、どうするか思案中です。
     トゥビンには交響曲が10曲(第11番は未完)あり、オペラやバレエ、室内楽やピアノなど幅広いジャンルで作品を書いています。もっと演奏されるべき作曲家だと思います。

    本番に向けて

     首席客演指揮者であるアラン・ギルバートとの共演も楽しみです。彼は自分でもヴァイオリンやヴィオラを弾きますし、室内楽の名手でもあります。耳の使い方がプレイヤーに近く、阿吽の呼吸が分かっている感じがします。
     都響と協奏曲を弾くのは初めてですが、他のオーケストラに客演して協奏曲を弾くのと、気持ちとしてあまり変わりはありません。協奏曲でソロを弾くよりも、オーケストラ内でソロ(マーラー《巨人》など)を弾く方がよほど緊張しますね。協奏曲やリサイタルで上手くいかなかった場合、個人として批判を受ければよいわけですが、オーケストラ内のソロは、都響を代表して弾くプレッシャーがかかります。協奏曲で自由に弾いた方が、ある意味で気はラク(笑)。これは、オーケストラ・プレイヤーなら誰でも感じていることだと思います。
     コントラバス協奏曲は、演奏されること自体が珍しいですし、コントラバスのソロを初めて聴くお客様もいらっしゃると思います。トゥビンの協奏曲は素晴らしい作品ですし、コントラバスの機能を活かすように縦横無尽に書かれている。楽しんでいただけると思いますので、ぜひ聴きにいらしてください。

  • 矢部達哉
    インタビュー

    © T.Tairadate

     7月23日都響スペシャル、7月24日A定期にてコンサートマスターを務める矢部達哉。都響メンバーである池松宏をソリストとして迎える心境や、後半のシェヘラザードの魅力などを聞きました。

    ヴァイオリンソロが活躍する絢爛豪華な大曲!アラビアンナイトの世界《シェヘラザード》

    © Rikimaru Hotta  指揮者が作品をどう捉えるかによるので、その都度指揮者が考える《シェヘラザード》にフィットするように矯正していく必要があります。自分だけ同じというわけにはいかないですからね。オーケストラ作品のヴァイオリンソロはたくさんありますが、《シェヘラザード》は、甘美で艶やか、テクニカルで華やかと、ヴァイオリンを使った王妃の心の模写のような、内面に踏み込んだ自由度が高い作品だと思います。
     一方で、同じヴァイオリンソロを持つ《英雄の生涯》と比べると心の在り方が異なります。指揮者が考えるR.シュトラウス像みたいなものがあるために解釈がとても重要で、オーケストラ全体の調和も強く意識しなくてはなりません。
     例えば終盤のホルンとの掛け合いは本当に綱渡りなところがあります。常に指揮を見ていたり、誰かを必ず意識しなくてはいけません。その点においては《シェヘラザード》の方がその類の緊張感が少なく、自由度は高いのです。「今、この時間は僕だけの時間」と思って演奏できる曲ですし、ソロはすごく怖いけれど、本当に美しいソロなので、ヴァイオリニストとしては本来ならば弾くのが楽しくて嬉しい曲ですね。

    アラン・ギルバートとの“繋がり”更なる円熟の境地へ

    © Rikimaru Hotta  アランは奏者との繋がりをとても大切にしていて、都響の辞書に書いていないものを示し、1人1人の音楽的な才能やセンスを次々と引き出してくれる稀有な指揮者。惰性やマニュアルを嫌い、常に学び探そうとするアマチュアリズムの精神を彼は一番に求めていて、いつも新しく作っていきたいと想う人だからこそ、こちらもきちんと指揮を見る必要がある。本当にクリエイティブな人です。
     彼は指揮台に立って一人一人、全員と繋がりたいと思っています。常に自分と繋がっていないとイヤだから、僕たちは常に彼の指揮を見ていないといけない。そうすると、一見がんじがらめになってしまうと感じるかもしれませんが、繋がることでお互いの綱引きみたいな状況の中からかえって自由が生まれてくるんですよね。
     とにかくアランは「自分を見て」と言う。でも、そこに合わせなければならないということではなく、彼が言うには「あなた達が『こうやりたい』というときに、私もそれを瞬時に知りたい」と。彼は指揮者として自分の思っていることをみんなと共有できたら絶対に上手くいくという自信やヴィジョンがあるので、まずは「そこに集まって欲しい。そして集まったら開放する。」そういったことが最近、少しずつできるようになってきたと思います。
     去年の第九で、僕は最初から最後までずっとアランと繋がっていたという感覚がありました。都響の歴史においても最も素晴らしい演奏の一つで、自分たちが知らなかった世界をたくさん見せてくれる、並々ならぬ指揮者だと思います 。
     今でも忘れることのない、彼が都響で初めて指揮をしたブラームスの交響曲第1番ももちろん素晴らしかったし、《アルプス交響曲》もモーツァルトの後期3大交響曲も素晴らしかった。
     言うまでもなく、要求は高く、ついていくのも大変ですが、今まで演奏してきたスタンダードな作品においても表現の幅を大きく広げてくれました。都響はアンサンブルが整っていて精緻なオーケストラだと思っていますが、都響がさらに成長する過程でアランみたいな指揮者が必要だということを最近よく感じています。
     彼の音楽はいつも大きくて、引き出す音も温かい。アンサンブルを突き詰めていくとどうしても鋭くなったり冷たく聴こえてしまうこともあるのですが、響きに温かみを加えてくれる。まだ誰にも言ったことはないけど“アラン・エフェクト”があると思います。毎年のようにベルリン・フィルに呼ばれる数少ない指揮者でもあり、そのクラスの人が毎年こうして来てくれて、これってすごく恵まれていることなんですよね。
     先日、7年ぶりに共演したフルシャがブルックナーのカーテンコールの時に小声で「最初から最後までずっとつながっていたよね」って言ってくれました。指揮を見る習慣みたいなものがアランのおかげで自然に備わったことで、フルシャが色々と仕掛けてくることへのリアクションが7年前とは全く違っていて、そのことにフルシャは驚いていました。ドヴォルザークの1日目の本番のあと、フルシャは「リハーサルとは全然違う動きをしたけど、みんながついてきた、すごくフレキシブルだった」と。
     フルシャが来られなかった7年間というのは、その間にアランがたくさん都響に来てくれた期間でもあります。アランの都響への貢献はもの凄く大きいんだなと改めて思いました。アランのお陰です。

    コンサートマスターが常に重要視するコントラバスの存在

     コントラバスの醍醐味はオーケストラにあると思うんです。深く温かな音色を持ち、全ての支えを任されています。
     コントラバスは皆(オーケストラ)を立たせる地、土台であり、道でもある。そのためコンサートマスターというのは、コントラバスのことを常に意識しているポジションなんですよね。コントラバスがどういう風に導こうとしているのかを察知せずに、コンサートマスターが勝手に動かそうとするのは無理なことで、コントラバスとティンパニを意識しないことにはコンサートマスターは務まりません。
     音楽がどこに進もうとして、どこに進めたくないのかを感覚的に察知していかなくてはならず、オーケストラが生きるも死ぬもコントラバス次第で、きちんと連携していなかったら全く意味のないものになってしまうんです。

     彼(池松)は都響の中で唯一の宇宙人!(笑)であり、動物的な感覚で研ぎ澄まされている人。そこは正直なところ認めたくはないけれど、その彼の感性は絶対に自分には適わない。「尊敬しているけれど、そのことは口に出したくはない」そんな存在です笑。今までに彼にされたいたずらのことが思い浮かんで、どう仕返しをしようかと思ったりもしますが、彼がソロを弾いて自分がコンマスで弾くというのは一生に一度のことかもしれない。30年来の友人でもありますが、今回は真摯に支え、ついていこうという気持ちでいます。

    アランが織りなす“オーケストラ”の醍醐味溢れる空間へ!

    © Rikimaru Hotta  アランとシェヘラザードを演奏するのもおそらく最初で最後だと思っています。
     ヴァイオリンのソロだけではなく、木管をはじめとした個々の美しいソロや、トゥッティになった時の華やかな響きから温かい響きまで、都響の名手たちの聴かせどころも沢山詰まった曲ですから、こんなにも「耳にご馳走」な、オーケストラ音楽の醍醐味が味わえる曲ってそう多くはないんですよね。それを今、ようやく熟してきたアランと都響の組み合わせで聴いていただけるのはまたとない機会ですので、絶対お聴き逃しなく!

    取材・文/広報・営業部






  • 5弦コントラバスが当たる!Xフォロー&リポストキャンペーン
    (7/23都響スペシャル[平日昼]、24定期A)

    ※7月15日をもちまして応募を締切りました。

    5弦コントラバスが当たる!Xフォロー&リポストキャンペーン
    (7/23都響スペシャル[平日昼]、24定期A)

    期間:2024年7月8日(月)~2024年7月15日(月・祝)23:59まで

    2024年7月23日(火)都響スペシャル(平日昼)、7月24日(水)第1005回定期演奏会Aシリーズに向けて、キャンペーンを行います!

    楽器プレゼントキャンペーン第3弾となる今回は、Gliga(グリガ)5弦コントラバス(!)を抽選で1名様にプレゼントします!
    本公演でソリストを務める首席コントラバス奏者池松宏 によると「この5弦の楽器でオーケストラの中で演奏すると存分に楽しめると思いますよ」とのこと✨
    アマチュアのオーケストラやアンサンブルグループ等の団体アカウントでの応募も可能です。
    このスペシャルな機会をお見逃しなく、奮ってご応募ください。
    協力:クロサワヴァイオリンコントラバス本店

    詳細はこちら→https://www.tmso.or.jp/j/news/30085/

映像

公演情報

都響スペシャル

2024年7月23日(火) 14:00開演(13:00開場)サントリーホール

第1005回定期演奏会Aシリーズ

2024年7月24日(水) 19:00開演(18:00開場)東京文化会館

出演

指揮/アラン・ギルバート
コントラバス/池松 宏(都響首席奏者)

曲目

マグヌス・リンドベルイ:EXPO(2009)
エドゥアルド・トゥビン:コントラバス協奏曲 ETW22(1948)
リムスキー=コルサコフ:交響組曲《シェヘラザード》 op.35(ヴァイオリン独奏/矢部達哉)