都響スペシャル2021（1/13） │ 東京都交響楽団

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出演

指揮／エリアフ・インバル

エリアフ・インバル　Eliahu INBAL（桂冠指揮者）

1936年エルサレム生まれ。これまでフランクフルト放送響（hr響）首席指揮者（現名誉指揮者）、ベルリン・コンツェルトハウス管首席指揮者、フェニーチェ劇場（ヴェネツィア）音楽監督、チェコ・フィル、台北市立響首席指揮者などを歴任。
　都響には1991年に初登壇、特別客演指揮者（1995 ～ 2000年）、プリンシパル・コンダクター（2008 ～ 14年）を務め、2回にわたるマーラー・ツィクルスを大成功に導いたほか、数多くのライヴCDが絶賛を博している。『ショスタコーヴィチ：
交響曲第4番』でレコード・アカデミー賞〈交響曲部門〉、『新マーラー・ツィクルス』で同賞〈特別部門：特別賞〉を受賞した。仏独政府およびフランクフルト市とウィーン市から叙勲を受けている。渡邉暁雄音楽基金特別賞（2018年度）受賞。
　2014年4月より都響桂冠指揮者。マーラーの交響曲第10番や《大地の歌》、バーンスタインの交響曲第3番《カディッシュ》、ショスタコーヴィチの交響曲第7番《レニングラード》、ブルックナーの交響曲第8番などの大作で精力的な演奏を繰り広げ、話題を呼んでいる。

曲目

ワーグナー：楽劇《トリスタンとイゾルデ》より「前奏曲と愛の死」

曲目解説
ブルックナー：交響曲第3番ニ短調 WAB103《ワーグナー》（ノヴァーク：1873年初稿版）

曲目解説

　ヨーロッパの19世紀とは、王侯貴族をはじめとする伝統的な特権階級に支配されてきた市民が、社会の中心に進出していった時代だ。そして、このような社会で重要視されたのが「理性」だった。新たな価値観に裏付けされた時代を築き上げてゆくにあたっては、古い因習や迷信を断ち切る必要があり、そのための最大の武器が「理性」だったからである。こうして、例えば理性を旨とする近代科学が進歩を遂げ、写真や電話など現代に至るまで用いられることとなる最新の発明品が次々と誕生した……。
　ところがこれらの発明品には、誕生当時から非理性的、非科学的な要素が付いて回っていた。霊や魂が写し出された「心霊写真」であったり、受話器をとるとあの世から死者の声が聞こえてきたり、といった類の怪奇伝承である。なぜこのようなことが起きたのか？　つまり写真であれば瞬間を切り取れる、電話であれば目の前にいない相手と話ができるといった具合に、それらは従来の人間の感覚をはるかに超越したものだったからだ。
　一つ発明の世界に限らない。通常の人間の感覚や理性を超え、その先の世界へと出てゆこうとする動きは、この時代の音楽にも現れる。リヒャルト・ワーグナー（1813～83）もアントン・ブルックナー（1824～96）も、市民社会が成長し、近代科学が進歩してゆく中に生きながら、この世ならざるものを音楽の中に飽くことなく表現し続けた代表的作曲家だった。

　そんなワーグナーの作品の中でも、楽劇『トリスタンとイゾルデ』は典型的な存在である。騎士トリスタンと、彼が仕える主君の妃イゾルデとの悲恋を描いたケルト神話や中世の叙事詩を基に、1857年から59年にかけて集中的に作曲が行われ、台本もワーグナー自身が手がけた。当時の彼は、亡命の途上で世話になった恩人の妻と不倫関係の最中にあり、こうした私的な事情も許されざる恋愛を描いた題材に色濃く反映されている。
　たしかに、身も心も焦がれるような官能や憧れや苦悩を描くべく、ワーグナーは当作品の随所に新たな技法を凝らした。その一例が、「前奏曲」の冒頭で聴かれる独特の和音。「トリスタン和音」と呼ばれるもので、西洋音楽を形作ってきた和声を崩壊寸前まで拡大したものだ。あるいは「無限旋律」と呼ばれるものもそうで、文字通りメロディが切れ目なく続いてゆく。いずれにしても、どこから来てどこに向かおうとしているのか一聴しただけでは分からない音楽を通じ、尋常ならざる恍惚感へ聴き手を引き入れようとする狙いであって、それゆえに初演当時から激しい毀誉褒貶（きよほうへん）を巻き起こした。
　ただし、ワーグナーが千々に乱れた恋愛感情を描くためだけに、未曾有の技法を用いたのかといえばそうではない。許されざる恋ゆえの恍惚がこの世ならざる救済をもたらすこと、つまりこの世の価値観では罪と見なされているものの最中にさえ……あるいはそうであるからこそ……人間の考えでは及びもつかない救いが現れるのだという逆説的なテーマを、ワーグナーは『トリスタンとイゾルデ』を通じて探求した。それが顕著に現れているのが劇の最後、トリスタンの亡骸を前にイゾルデが絶唱をする場面だろう。一般的に「愛の死」と呼ばれている場面だが、ワーグナーはここを「イゾルデの浄化（イゾルデの変容）」と名付けているほど。
　なおこの「愛の死」、楽劇ではイゾルデ役のソプラノ歌手がオーケストラを従えて歌うが、演奏会ではオーケストラのみによるヴァージョンが有名である。死、変容、浄化といった理性を超えた現象を、ことによれば歌手以上に雄弁に描くオーケストラの多彩な響きの中には、この世的な感覚を超えた彼方へ注がれた想いが溢れている。
（小宮正安）

作曲年代	1857～59年
初　　演	「前奏曲」のみ／1860年1～2月　パリ　作曲者指揮全曲／1865年6月10日　ミュンヘンハンス・フォン・ビューロー指揮　バイエルン宮廷歌劇場
楽器編成	フルート3（第3はピッコロ持替）、オーボエ2、イングリッシュホルン、クラリネット2、バスクラリネット、ファゴット3、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、テューバ、ティンパニ、ハープ、弦楽5部

　アントン・ブルックナー（1824～96）が交響曲第3番に着手したのは1872年の秋だったが、現在最もよく演奏される第3稿が完成したのはその17年後、1889年のことだった。この17年の間に、この曲は作曲者によって何度も手が加えられ、大きく姿を変えていった。そのため、第3番にはいくつかの異稿が存在する。一般的によく知られているのは、レオポルト・ノヴァーク（1904～91）の校訂で出版されている以下の3つのヴァージョンだ。

　初稿（作曲／1872～73年）※本公演で演奏
　リヒャルト・ワーグナー（1813～83）作品からの引用を多く含み、3つの稿のうちで最も長い。ブルックナーが、交響曲第2番と第3番の楽譜を携えて、バイロイトのワーグナー宅を訪ねた（1873年9月）エピソードはよく知られている。ワーグナーは第3番に大いに興味を示し、ブルックナーを激励したので、ブルックナーはこの曲をワーグナーに献呈した。そのためこの曲は、《ワーグナー》交響曲と呼ばれることもある。このときの第3番は未完成段階にあった初稿だった。
　初演は、ヨハン・ヘルベック（1831～77）指揮のウィーン・フィルによって行われる予定だったが、「演奏不可能」ということで中止されてしまった。以後、作曲者の生前は演奏も出版もされず、1977年に初めて出版された。
　第2稿（改訂／1876～77年)
　交響曲第5番の作曲中に改訂を始め、1877年4月28日に完了した（さらに、1878年1月30日にスケルツォのコーダが書き上げられた）。ワーグナーからの引用のほとんどを削除し、全体を大幅に短縮している。1877年12月16日、作曲者指揮ウィーン・フィルによって初演されたが、大失敗に終わった。1950年に出版された、国際ブルックナー協会による第1次全集の楽譜（エーザー版）は、この第2稿に基づいていた。
　第3稿（改訂／1888～89年）
　作曲者自身によるヴァージョンとしてはこれが最終だ。改訂当時、ブルックナーは交響曲第9番の作曲を進めていた。当然のことながら、音楽のスタイルは初稿、第2稿と大きく異なり、後期の様式が入っている。また、初稿が全曲で2056小節あったのに対し、この第3稿は1644小節と、ほぼ5分の1も短くなった。初演は1890年12月21日、ハンス・リヒター（1843～1916）指揮ウィーン・フィルによって行われ、成功を収めた。1959年、ノヴァークの校訂で出版された。現在、交響曲第3番が演奏される際はこの版が使われることが多い。

　以下では、本日演奏される初稿の各楽章について、一般的によく演奏される第3稿との相違点をピックアップしながら解説する。

　第1楽章　中庸に、神秘的に　ニ短調　2分の2拍子　第3稿では速度指示が「中庸に」ではなく「遅めに」となっている。ブルックナーの愛用した、3つの主題を持つソナタ形式の楽章。いかにもブルックナーらしい弦の動きの中から、トランペットによる第1主題の旋律が浮かび上がる。旋律線そのものは改訂を通じてほぼ変わっていないが、トゥッティによる最初のffが出た後の全休止で、第3稿では休符にフェルマータが付いているのに初稿は付いていないなどの違いがある。
　第2主題は第2ヴァイオリンが流麗に歌うヘ長調の主題で、3＋2あるいは2＋3の、いわゆるブルックナー・リズムが使われている。第3主題も同じリズムに基づいているが、今度はヘ短調で、第2主題とは対照的に「はっきりと弾いて」という指示がある。
　展開部の最後あたりで、弦がpppになり、半音階を下がっていく旋律が出てくるが、これはワーグナー『ヴァルキューレ』の「眠りの動機」の引用である。この部分は初稿にしかない。

　第2楽章　アダージョ／荘厳に　変ホ長調　4分の4拍子　第3稿では「アダージョ／動きをもって　クワジ・アンダンテ」となった。第2楽章は改訂作業で最も大きく姿を変えた楽章だ。全体の構成は、初稿では「A1－B1－C1－B2－A2－B3－C2－A3－コーダ」の形。複雑に見えるが、下線部を一体と見れば、主部（A）とエピソードの交代でできていることが分かる。第3稿では短縮され、「A1－B1－C1－B2－A2－コーダ」となった。
　第1ヴァイオリンによる主部の主題（Ａ）、ヴィオラによる4分の3拍子の主題（Ｂ）、「より遅く、神秘的に」と指示のある、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロの主題（Ｃ）とも、非常に美しい。また、初稿では、A3の部分にワーグナー『タンホイザー』からの堂々たる引用があるが、これは第2稿以降では削除された。
　第3楽章　スケルツォ／かなり急速に　ニ短調　4分の3拍子　3部形式のスケルツォ。ヴァイオリンの旋回音型が繰り返された後、ほぼＤ（ニ）とA（イ）だけでできた主題が最強音で鳴る。トリオはレントラー的なのどかな雰囲気となる。トリオの後ではブルックナーの通例通り、主部がそのまま繰り返される。
　このような構成は改訂を経ても基本的に変わっていないが、細部には違いがあり、特に楽章の締めくくり方は何度も書き直された。ニ長調の主和音で終わることに変わりはないが、第3稿ではヴァイオリンが冒頭の旋回音型を8回繰り返し、最終的に属音A（イ）で終わるのに対し、初稿では最後に4度上がり、主音Ｄ（ニ）で終わる。
　第4楽章　フィナーレ／アレグロ　ニ短調　2分の2拍子　この楽章も3つの主題を持つソナタ形式となっている。半音上昇を忙しく繰り返す弦に導かれて現れるたくましい第1主題、弦楽器のポルカ風の旋律に管楽器のコラールが重なる嬰ヘ長調の第2主題、突然最強音で現れる、残響の長い聖堂に響くオルガンのような第3主題は、どの稿にも共通している。
　しかしこの楽章は、初稿ではたくさんあった全休止（いわゆる「ブルックナー休止」）が第3稿では非常に少なくなっていることをはじめ、稿によっていろいろな違いがある。全体の長さも、初稿が764小節、第3稿が495小節と、改訂によって大幅に短くなっている。最も大きく変わったのが再現部とコーダだ。再現部は、初稿では3つの主題が順に出てくるオーソドックスなスタイルなのに対し、第3稿では第1・第3主題がまるごと省略されている。また、初稿のコーダでは、第1楽章の第2主題、第2と第3楽章の第1主題の断片が順に回想される部分があるが、これは第3稿では削除されている。
（増田良介）

作曲年代	初稿／1872～73年
初　　演	初稿／1946年12月1月　ドレスデンヨーゼフ・カイルベルト指揮　シュターツカペレ・ドレスデン
楽器編成	フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、ティンパニ、弦楽5部

【当日券情報】都響スペシャル2021（1/13）（1/8up）
都響スペシャル2021（1/13）は感染症の拡大防止のため、都響WEBチケットにて当日券を発売いたします。
会場での対面販売、及び都響ガイドでの電話販売は行っておりませんのでご了承ください。

販売日時：1/13（水）10:00～18:00　~~無くなり次第終了~~予定枚数終了いたしました
販売方法：都響WEBチケット（コンビニ支払・コンビニ発券のみ）
※お申込みには、都響WEBチケットへの事前登録が必要です（登録無料）。
※S～B席を30枚程度販売予定（政府が要請するイベントの開催要件（収容率50%以下）の範囲内での限定枚数販売）。
※当日券はシルバー割引・U-25割引・ハンディキャップ割引はございません。
　割引をご希望の方は前売りにてお求めください。
※入場者数は客席の50%を上限とし、左右どちらかの席が空席となります。
※「来場されるお客様へのご案内」の内容に同意いただいた上でお申込みください。
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【2021年1月主催演奏会は予定通り開催いたします】（1/8up）
https://www.tmso.or.jp/j/news/11529/

新型コロナウイルス感染症の拡大防止に伴い、新規のチケット販売を一旦停止しております。（1/7up）

【エリアフ・インバルの来日について】（12/27up）
本公演に出演予定のエリアフ・インバルは、すでに来日をしており、必要な14日間の隔離措置期間中です。
今のところインバルが指揮する公演は当初発表の日程で開催する予定です。

※本公演は都響スペシャルです。定期演奏会Bシリーズではございません。
定期演奏会Bシリーズのチケットではご入場いただけませんので、ご注意ください。
・基礎疾患（糖尿病・心不全・呼吸器疾患等）をお持ちの方や体調に不安のある方は、医師の判断や関係機関の情報をご確認の上、慎重なご判断をお願いいたします。当面の間、当日券は必ず販売いたします。体調に不安のある方は当日券（都響WEBチケットのみ）をご検討ください。
・必ず、「来場されるお客様へのご案内」の内容に同意いただいた上でお申込みください。
・急遽出演者や曲目変更、または公演中止となる場合がございます。公演中止の場合を除き、払い戻しはいたしません。
但し、急な体調不良・発熱等の理由でご来場いただけなくなった場合は、期間内に下記フォームよりご連絡ください。購入者へチケット代金の払い戻しをいたします。連絡が無い場合の欠席については、払い戻しいたしかねます。（払い戻しには、半券が切り取られていない状態のチケットが必須となります）。
［払い戻しフォーム］https://www.tmso.or.jp/j/henkin/（公演当日10：00～18：00）
※お電話の場合、公演当日、都響ガイド（0570-056-057）にて払い戻し専用の電話番号をお知らせいたします。

医療関係者を主催公演へご招待－「ブルーチケット」

新型コロナウイルス感染症対策で日夜奮闘する、医療機関に務めている皆様に感謝の意を表し、都内の医療関係者およびそのご家族を都響の主催公演へご招待いたします【各公演10席／抽選】。
「ブルーチケット」の詳細はこちらをご覧ください。

※「ブルーチケット」は「MAKE IT BLUE JAPAN実行委員会」の活動と連携しています。https://www.makeitbluejp.com/

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エリアフ・インバル Eliahu INBAL（桂冠指揮者）

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