定期演奏会 Cシリーズ

第986回定期演奏会Cシリーズ

終了日時：2023年11月12日（日） 14:00開演（13:00開場）

場所：東京芸術劇場コンサートホールホール案内座席表

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出演

指揮／ジョン・アクセルロッド
ヴァイオリン／アレクサンドラ・コヌノヴァ

プロフィール一覧

ジョン・アクセルロッド　John AXELROD（指揮）

ルツェルン響・歌劇場音楽監督兼首席指揮者、フランス国立ロワール管音楽監督、ミラノ・ジュゼッペ・ヴェルディ響首席客演指揮者、スペイン王立セビリア響音楽監督、京響首席客演指揮者などを歴任。現在、ブカレスト響首席指揮者。都響とは2021年12月に初共演、今回が3度目の登壇となる。ベルリン放送響、NDRエルプフィル（北ドイツ放送響）、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管、パリ管、フランス国立リヨン管、ロンドン・フィル、ロイヤル・フィル、フィルハーモニア管、サンタ・チェチーリア国立アカデミー管、ロイヤル・ストックホルム・フィル、デンマーク国立響、オスロ・フィル、スウェーデン放送響、ウィーン放送響、ザルツブルク・モーツァルテウム管、シンフォニア・ヴァルソヴィア、ロサンゼルス・フィル、フィラデルフィア管、シカゴ響など、これまでに150以上の世界各地のオーケストラを指揮、たびたび再招聘されている。オペラではブレゲンツ音楽祭、パリ・シャトレ座、ミラノ・スカラ座などに登場。現代作品にも積極的に取り組んでいる。

アレクサンドラ・コヌノヴァ　Alexandra CONUNOVA（ヴァイオリン）

2012年ハノーファー・ヨーゼフ・ヨアヒム国際ヴァイオリンコンクール優勝。第15回チャイコフスキー国際コンクール第3位、2016年ボルレッティ＝ブイトーニ財団フェローシップ賞受賞。これまでにＮＤＲ北ドイツ放送フィルハーモニー響、スイス・ロマンド管、マーラー・チェンバー・オーケストラ、トゥールーズ・キャピトル国立管、パリ室内管、マリインスキー劇場管、ロシア・ナショナル管等と共演、またクルレンツィス、プレトニョフ、タカーチ=ナジ、ノセダ、アクセルロッドらと共演を重ねている。ヴェルヴィエ、モントルー、グシュタード、エクサンプロヴァンス等数々の音楽祭の常連で、アルゲリッチ、カプソン兄弟、リフィッツ、A.オッテンザマー、コセらと共演している。最新盤のヴィヴァルディ「四季」（アパルテ）はグラモフォン誌に「暖かな音色、縦横自在のテクニック、豊かな表現力、極めて自然な音楽づくり…素晴らしいの一言に尽きる」と絶賛された。

曲目

シルヴェストロフ：沈黙の音楽（2002）

曲目解説
シベリウス：ヴァイオリン協奏曲ニ短調 op.47

曲目解説
ショスタコーヴィチ：交響曲第5番ニ短調 op.47

曲目解説

シルヴェストロフ：沈黙の音楽

　ヴァレンティン・シルヴェストロフ（1937～）は、現代のウクライナを代表する作曲家のひとりだ。キーウ音楽院でレフコ・レヴツキー（1889～1977）とボリス・リャトシンスキー（1895～1968）に学んだ彼は、1960年代、まず、西欧の新しい音楽の潮流の影響を受けた「キーウ・アヴァンギャルド」のメンバーとして前衛的な作品を発表し、注目された。しかしその後、彼は作風を大きく転換し、1970年代以降は、主として調性を用いたロマンティックな音楽を書くようになった。
　ただ、旧ソ連において、シルヴェストロフの作品は1960年代から事実上演奏が禁止されていたため、ギドン・クレーメル（1947～）をはじめとする支持者たちが、主にソ連国外で演奏してはいたものの、知る人ぞ知る存在にとどまっていた。そんな彼の作品が国際的に広く知られるようになったのは、今世紀になって、シルヴェストロフの作品を収めたCDがECMレーベルから相次いで発売されてからのことだ。本日演奏される《沈黙の音楽》は、そのECMレーベルの創設者マンフレート・アイヒャー（1943～）に献呈されている。
　さて、2022年2月24日に始まったロシアのウクライナ侵攻は、シルヴェストロフの運命も大きく変えた。侵攻開始から間もない翌3月、彼は家族とともにキーウの自宅を去り、ポーランドを経由してドイツへと亡命した。彼が2014年のマイダン革命（ウクライナ騒乱）の折に書いた無伴奏混声合唱曲《ウクライナへの祈り》は、ウクライナへの連帯を表明する作品として世界各地で演奏されるようになった。都響は、2022年4月21・22日に大野和士の指揮でこの曲の管弦楽版（アンドレアス・ジース編曲）を日本初演している。
　2002年の作品《沈黙の音楽》は短い3曲からなり、各曲は「瞬間のワルツ（Waltz of Moment）」「夕べのセレナーデ（Evening Serenade）」「セレナーデの瞬間（Moments of the Serenade）」というタイトルを持っている。第1・3曲の「瞬間」は同じ単語だが、第1曲は単数形、第3曲は複数形だ。また、直訳すると「Silent Music＝静かな音楽」となるタイトル通り、3曲はほぼ弱音で書かれている。楽譜には大量の強弱記号が書き込まれているが、fやmfは第1曲冒頭の4小節に現れるのみで、あとはすべてmpからpppだ。
　第1曲「瞬間のワルツ」　アレグロ　ドルチッシモ、レッジェーロ、ロンターノ　ト長調　ノスタルジックな雰囲気のワルツだが、テンポの変化が非常に頻繁に指定されているため、3拍子の律動感はほぼ感じられない。また、第1ヴァイオリンとチェロは最大3部、第2ヴァイオリンとヴィオラは2部に分割され、各パートには強弱の指示が細かく書き込まれ、繊細な響きを織りなしている。和声のうつろいはしばしばマーラーの交響曲第10番を連想させる。
　第1曲と第2曲の最後にはフェルマータの付いた全休符があるが、そのあとにアタッカ（休まずに続けて）の指示があり、緊張感を保持したまま次の曲に入る。
　第2曲「夕べのセレナーデ」　モデラート　コン・モト（ポコ・ルバート）　ニ短調　この曲では、すべてのパートが弱音器を付けて演奏する。ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第14番《月光》第1楽章を思わせる内声の分散和音で始まるが、第1ヴァイオリンが歌い始める主旋律は、シューベルトの歌曲集《白鳥の歌》の「セレナーデ」を換骨奪胎している。この楽章でもコントラバスを除く各パートが分割されているが、「セレナーデ」を歌い交わす第1・第2ヴァイオリンは基本的に分割されず、旋律を浮き上がらせている。
　第3曲「セレナーデの瞬間」　ラルゲット　コン・モト（ポコ・ルバート）　ハ長調　第2曲と同様、すべてのパートが弱音器を付けて演奏する。主にチェロの担当する分散和音に乗せて、この楽章でもやはり分割された各パートが穏やかな旋律を繰り返す。4分の4拍子にときおり混じる4分の5拍子が、フレーズの終わりで立ち止まるような効果を作っている。
（増田良介）

作曲年代	2002年
初　　演	第1曲／2002年9月18日　キーウ第2・3曲／2003年10月3日　キーウともにヴァレリ・マチューヒン指揮　キーウ・カメラータ
楽器編成	第1ヴァイオリン6、第2ヴァイオリン4、ヴィオラ4、チェロ3、コントラバス1

シベリウス：ヴァイオリン協奏曲ニ短調 op.47

　1904年に発表されたジャン・シベリウス（1865～1957）のヴァイオリン協奏曲は、彼が残した唯一の協奏曲である。もともとヴァイオリニストを目指していたシベリウスは、この楽器の演奏技法や表現上の特性を全て知り尽くしていた。その彼が満身の力をこめて作曲したヴァイオリン協奏曲は、20世紀を代表する傑作協奏曲として、今や高い人気を博している。
　シベリウスがヴァイオリン協奏曲に取り組んだきっかけは、友人アクセル・カルペラン（1858～1919）の進言である。交響曲第1番ホ短調op.39（1899／1900改訂）が国際的に評価され、続く第2番ニ長調op.43（1902）の大成功でシンフォニストとしての自信を深めていたシベリウスでも、協奏曲の創作は全く新たな挑戦だった。当時のシベリウスは、支配国ロシアの圧政に抵抗して高まりつつあったフィンランドの重苦しいナショナリズムから距離を置き、より清澄な作風に向かおうとしていた。おそらく彼はヴァイオリン協奏曲の創作を通して、これまでとは異なる表現世界の扉を開こうとしたのだろう。しかし、その挑戦の道のりは困難をきわめることになった。
　最初の試練は1904年初頭に披露された初稿の大失敗である。その原因の一つとして、ソリストに急きょ抜擢されたヴィクトル・ノヴァチェク（1875～1914）の力不足を指摘する者もいる。だが鉛のように重々しい曲調や、演奏効果の乏しい独奏ヴァイオリンの超絶技巧にも見逃せない問題があった。それを自覚せざるをえなかったシベリウスは、初稿を封印して大幅な修正を加えることにする。より透明で峻厳な響きを求め、作品の内部構造にもメスを入れた改訂作業は大いに難航した。なお、その間にシベリウス一家は喧噪なヘルシンキを離れて、自然豊かなヤルヴェンパーに転居している。
　改訂稿の初演はカレル・ハリール（1859～1909）をソリストに迎え、リヒャルト・シュトラウス（1864～1949）指揮ベルリン・フィルという豪華な陣容で、1905年秋に行われた。しかし、この改訂稿も名ヴァイオリニストのヨーゼフ・ヨアヒム（1831～1907）から「退屈で飽き飽きする」と酷評されてしまう。それでもジネット・ヌヴー（1919～49）やヤッシャ・ハイフェッツ（1901～87）、ダヴィド・オイストラフ（1908～74）ら、多くのヴァイオリニストの尽力により協奏曲の真価が少しずつ認められると、その後広く世界中で演奏されるようになっていく。
　第1楽章　アレグロ・モデラート　全楽章中もっとも長大で複雑な構成を持つ。ソナタ形式を下敷きにしているが、独奏ヴァイオリンの精緻なカデンツァを展開部として配置するなど、シベリウス独自のデザインに基づいている。冒頭の主題が内包するドリア旋法（教会旋法の一つ）の要素が全体の響きに大きな影響を与えている。
　第2楽章　アダージョ・ディ・モルト　ロマンス風の抒情的な緩徐楽章。神秘的な色彩を帯びている一方、曲の後半ではソリストの技巧的なパッセージが現れて緊迫した雰囲気になる。
　第3楽章　アレグロ・マ・ノン・タント　ソリストに圧倒的な力量を要求する躍動感に満ちたフィナーレ。性格のはっきりした2つの主題を軸にしながら、終始ダイナミックに高揚していく。
（神部智）

作曲年代	1903～04年　1905年改訂
初　　演	初稿／1904年2月8日　ヘルシンキヴィクトル・ノヴァチェク独奏　作曲者指揮　ヘルシンキ・フィル改訂稿／1905年10月19日　ベルリンカレル・ハリール独奏　リヒャルト・シュトラウス指揮　ベルリン・フィル
楽器編成	フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、ティンパニ、弦楽5部、独奏ヴァイオリン

ショスタコーヴィチ：交響曲第5番ニ短調 op.47

　ドミトリー・ショスタコーヴィチ（1906～75）の交響曲第5番は、彼の作品の中ではもちろん、20世紀に書かれたすべての交響曲の中でも最もよく演奏される作品の一つだ。
　1936年1月、ソ連共産党機関紙『プラウダ』（すなわちソ連当局）によって、ショスタコーヴィチの歌劇『ムツェンスク郡のマクベス夫人』が厳しく批判される。これによってショスタコーヴィチは、絶体絶命の危機に陥った。当時、最高指導者ヨシフ・スターリン（1878～1953）により、政治指導層はもちろん文化人も処刑／強制収容所へ送る大粛清が進行しており、文字通り生命の危険に直面したのである。
　ショスタコーヴィチは、初演の準備がかなり進んでいた交響曲第4番を撤回する。そして新しく作曲したのがこの交響曲第5番だった。ベートーヴェン風の「苦悩から歓喜へ」という明快な構成をもち、輝かしいニ長調のフィナーレで終わるこの曲の初演は大成功を収め、ショスタコーヴィチはこれにより、事実上の名誉回復を果たした。
　なお、初演を指揮したエフゲニー・ムラヴィンスキー（1903～88）は、このときがショスタコーヴィチとの初めての出会いだったが、彼らはこの成功をきっかけに親交を結ぶ。以後、作曲者は彼を非常に信頼し、多くの作品の初演を任せた。
　さて、作曲者の存命中は、社会主義の闘争と勝利を描いていると何となく思われていたこの曲だが、1980年代以降、実は重層的な意味のある作品だという考え方が広がる。現在も、ビゼーの歌劇『カルメン』や、自作の歌曲「復活」の引用などを手がかりに、この曲の隠された意味を探ろうとする議論は絶えない。特に、作曲者がこの曲にスターリンに対する批判を込めたという考え方には支持者が多い。それは自然な考え方ではあるものの、その通りだと断定できるほどの手がかりはまだ出ていない。
　スターリンの死後に発表された交響曲第10番において、第2楽章は「スターリンの肖像」だとする説が一時期広まったが、実は思いをかけていた女性の名前が織り込まれていた（第3楽章）ことが書簡から判明した例もある。ショスタコーヴィチの音楽は一筋縄ではいかないのだ。
　第1楽章　モデラート　自由なソナタ形式。主要主題は、弦合奏による重々しいカノンの序奏主題、第1ヴァイオリンの下降で始まる静かな第1主題、ビゼーの『カルメン』「ハバネラ」を思わせる第2主題（第1ヴァイオリンが提示）の3つ。提示部には他にもいくつかの主題が現れていて、展開部以降ではそれぞれに役割を果たす。
　ピアノが登場し、ホルンが粗暴な行進曲のように第1主題を吹く箇所からが展開部だ。展開部では提示部の主題群を用いた暴力的なクライマックスが築かれる。再現部は、まず序奏主題が低音に反行形で現れ、次に第2主題によるカノン（フルートとホルン）となる。
　第2楽章　アレグレット　3部形式のスケルツォ。交響曲第4番のスケルツォ楽章と同様、主部は、マーラー風の苦くグロテスクなユーモアが感じられる。ヴァイオリン独奏が活躍する中間部のあと、主部が戻ってくるときには主題がピッツィカートになっている。
　第3楽章　ラルゴ　悲痛な雰囲気が支配する緩徐楽章。複数の主題による変奏曲と見ることができるが、心細げに提示された主題が次に出てくるときには威圧的だったり、あるいはその逆だったりと、さまざまな工夫がこらされている。金管楽器はまったく使わず、弦は、ヴァイオリンを3群、ヴィオラとチェロを各2群に分割し、繊細な響きを作り出している。ハープやチェレスタの使い方も効果的だ。
　第4楽章　アレグロ・ノン・トロッポ　自由な形式のフィナーレ。急－緩－急の3部分に分かれる。まず、ティンパニが4度音程を打ち鳴らし、トランペットとトロンボーンが行進曲風の力強い主題を吹く。これが次第にテンポを上げながら頂点に達すると、突然失速し、静かでゆっくりとした第2部に入る。しばらく物思いにふけるような音楽が続くが、やがて再び静かに行進曲のリズムが始まり、冒頭の主題が復帰すると第3部となる。ほぼ短調で進んでいくが、最後の最後でニ長調となり、少なくとも表面上は輝かしい終結に至る。
　なお、楽章冒頭の「ラレミファ」という音型と、第2部の最後に出てくるハープの音型は、この曲と同時期に書かれた《プーシキンの詩による4つのロマンス》op.46に含まれる歌曲「復活」の引用とされる。「野蛮人が画家の絵をでたらめに塗りつぶすが、やがてそれは剥がれ、もとの美が姿を現すだろう」というこの歌曲の内容は、作曲者の受けた批判に対する抗議と見なすこともできる。
（増田良介）

作曲年代	1937年4月18日～7月20日
初　　演	1937年11月21日　レニングラードエフゲニー・ムラヴィンスキー指揮　レニングラード・フィル
楽器編成	ピッコロ、フルート2、オーボエ2、小クラリネット、クラリネット2、ファゴット2、コントラファゴット、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、テューバ、ティンパニ、大太鼓、小太鼓、シンバル、トライアングル、タムタム、グロッケンシュピール、シロフォン、ハープ2、ピアノ（チェレスタ持替）、弦楽5部

【当日券情報】第986回定期演奏会Cシリーズ（11/10up）
都響主催公演では、都響WEBチケットで当日券を販売いたします。
　【販売時間】
公演当日10:00～開演時間の30分前まで。　※無くなり次第終了
　【販売席】
全席種販売予定
　【販売方法】
都響WEBチケット（座席選択可）
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①セブンイレブンで発券
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※会場近くにセブンイレブンが無い場合もございます。事前にご確認の上、ご来場く
ださい。（東京文化会館とサントリーホールは近くにございません）
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なお、WEB当日券に余裕がある場合にのみ、会場でも販売いたします。
会場販売では、
・開場時間から販売いたします。※会場販売分の販売枚数が無くなり次第終了。
・座席ランクは選べますが、座席の場所はお選びいただけません。
・お支払はクレジットカード、交通系IC、QRコード決済でお願いします。現金はご利用いただけません。
・U-25割引がご利用いただけます。

聴きどころ

コロナ禍の2021年12月と2022年2月にピンチヒッターとして都響定期を救ってくれた頼れる職人アクセルロッドが、満を持しての再登場です。ウクライナを代表する作曲家シルヴェストロフの愁いに満ちたメロディが胸にしみる弦楽合奏曲《沈黙の音楽》、コヌノヴァの美しく透明感あふれる音色が活きるシベリウスのヴァイオリン協奏曲、苦悩から勝利へ（？）今なお謎多きショスタコーヴィチの第5交響曲。質・量ともに聴きごたえ充分です。