【インタビュー記事】柳原佑介 (第943回定期演奏会Cシリーズ)

レポート
2月23日に行われる第943回定期演奏会Cシリーズで演奏されるニールセン:フルート協奏曲は、もともと2020年3月のプロムナードコンサートで演奏される予定でしたが、新型コロナウイルス感染症の拡大防止のため公演が中止になりました。
今回ソリストを務める柳原佑介に当時行ったインタビューを再掲いたします。「柳原にとってのフルートとは」「現在使用している楽器について」など熱い思いをお受け取りください。
※2020年当時のインタビューのため、時代表記などは読みやすくするために一部変更をしています。

——まずはフルートを始められてから現在までの歩みをお話いただけますか

始めたのは小学4年の9歳のときで、母がフルートを吹いている山形由美さんをテレビで見て、僕にちょっとやらせてみようと思ったのが始まりでした。幸い家の近くに石橋正治先生が住んでいらしたので、週1で習い始めました。母は小学生のうちにやめるだろうと思ってたらしいのですが、中学・高校では吹奏楽部に入ったり、その当時ドラクエにハマっていてCDを買って付属の楽譜で吹きまくってフルートを楽しむようになってました。そして石橋先生のご指導と類い稀なる強運を発揮し藝大に入ることが出来ました。藝大では4年間、金昌国先生に師事しました。大学4年のとき日本フィルに学生契約で入団し6年所属し、2004年10月、27歳のとき都響に首席奏者として入団させて頂きまして現在に至ります。


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——今回演奏されるニールセンの協奏曲との関わりや曲の魅力などを教えてください

ニールセンのフルート協奏曲は、今ではみんなが勉強する曲かと思いますが、僕の学生時代はまだ流行っておらず、1学年下の高木綾子さんが初めて演奏したといった状況だったと思います。その後教えてる大学でこの曲をレッスンした際、とても面白い曲だと感じましたし、大学生のときに吹いておけば良かったと思いました。そして今から2年半前、大野和士さんがニールセンをやりませんか?と言われていると聞きまして、が…頑張りますって感じで返事をしました。
オーケストラ伴奏でのニールセンをちゃんと聴いたことなくて焦っていたところ、たまたま昨年(2019年)の10月に日本音楽コンクールがありまして、本選に進んだ5人中4人がニールセンを演奏するというので聴きに行きました。オーケストラとの様々な絡み方を目の当たりにすると同時になんて大変な曲なんだ…とめげそうになりました。
このニールセンの協奏曲は、いろいろな場面のある曲です。基本的にフルートらしくない(?)カッコいいところが多いですが、さわやかな場面、悲しい場面、クラリネットと速いパッセージで絡んだり、バストロンボーンにいじめられたり(嘘)
私は速いパッセージを練習することは苦でないのですが、その量が多すぎて今は指ばかり練習しています。例えるならばドボ8の4楽章のソロが10個くらいある感じ。フルートは優美なイメージが強いかもしれませんが、私は小さい頃から速いパッセージをカッコよく吹くのに命をかけていたので、今は練習が楽しいです(強がり)

——いつも演奏されている都響をバックにソロを吹かれることについての思い、また都響の音楽監督である大野和士さんとの共演への思いはいかがでしょうか?

物凄く嬉しいですし光栄ですが、プレッシャーも物凄いです。でもそれがあり過ぎるので逆に開き直れるのではないかなと。曲の大変さをまだ体験していないのでうまく吹けなくても仕方ないと開き直って、可能な限り練習し、ベストを尽くすしかないと思っています。でもできれば楽しみたいです。
大野さんは、リハーサルのときに話される説明がわかりやすく面白いので、曲のイメージが湧きやすいです。以前ベートーヴェンの「運命」の第2楽章の木管ユニゾンの悲しげなメロディを、「夏休みに昆虫採集に行くところ」と言われました。そういう突拍子もない説明をさらっと言って、それが演奏に反映されるといった経験をたびたびしてます。私にとって誰よりも信頼できる心強い指揮者です。

——柳原さんにとってフルートの魅力とは何でしょうか? またお使いの楽器についてお話しいただけますか

全ての楽器がそうだと思いますが、フルートも吹く人の個性がモロに出る楽器だと思います。そしてモロさも兼ね備えてる楽器でもある気がします。
今使ってるフルートは、ヨハネスハンミッヒというドイツの古い楽器です。以前はムラマツの14金を使っていましたが、ずっと銀で吹きたい気持ちがありまして、2017年の夏頃からこの楽器を使うようになりました。この楽器は都響の奏者だった野口博司さんが数十年前に購入した楽団の楽器で、今は作られておらず中古でしか出回っていません。銀なので金の楽器より音量は出ないのですが、音色が好きなので使うようになりました。金よりも柔らかく響きが豊かで、木管アンサンブルがしやすい気がします。金の楽器以上に体調が反映される面もありながら、聴く人の心により強く訴える音が出せる楽器だと思っています。
ただこの楽器で協奏曲を吹くのは初めて。ニールセンは馬力も必要だと思うので、昨年(2019年)の12月くらいまで金の楽器で吹こうかどうか悩んでいました。しかし結局今1番吹き慣れてる楽器で吹くことに決めました。金の楽器とはだいぶ音程の癖が違いますし、いまだにどんな曲もかなり練習しないと吹けない楽器なのですが、逆にたくさん練習して演奏もこなれていくメリットもあります。日本で使っている方も少ない楽器だと思うので、今回はその豊かな響きを聴いてほしいですね。

今回改めて演奏をするにあたっても、少し迷いつつ銀で吹くことを決意したそうです。(本人談)

文/柴田克彦(音楽ライター)