【第9回楽員国際交流事業レポート】第1ヴァイオリン奏者/蔭井清夏
レポート
Musician Exchange Programme
シンガポール交響楽団との楽員交流事業では、プログラムが異なる2つの定期演奏会に出演した第1ヴァイオリン奏者 蔭井清夏。
自身にとって思い出のあるシンガポールの話をはじめ、リハーサルや本番について聞きました。
夢が叶った、シンガポール響での演奏
父の仕事の関係で、5歳から10歳までシンガポールに住んでいました。ですので、シンガポール響は自分にとって懐かしいオーケストラで、弦楽器数名の方々とは、子ども向けジョイントコンサートで共演させて頂いた経験があります。12月には《くるみ割り人形》をよく聴きに行っていました。当時は、ヴァイオリニストになりたいと思っていなかったので、まさか日本に帰ってヴァイオリンを習い続け、音楽大学に行って、シンガポール響と交流のある都響に入るなんて、もちろん想像ができなかった。なんかミラクルっていうか、人生いいことあるなっていう感じで、ひとつ夢が叶いました(笑)

左:ホール外のテラスより 右:2公演目でスタンドパートナーだったヨーンハン・チャンさんと
多国籍のメンバーがいるオーケストラ

1stヴァイオリンの皆さんと
現地に行って最初のリハーサルは、シンガポール響の音楽監督を務めるハンス・グラーフさんの指揮でバルトークのピアノ協奏曲第2番でした。ピアノは、ピエール=ロラン・エマールさん。その他は、マクミランのオーケストラのための協奏曲(アジア初演)とプロコフィエフの《ロメオとジュリエット》のセレクションという充実のプログラムでした。
リハーサルは英語なのですが、周りから中国語も聞こえてくるから、中国語の方が楽なの?と隣の方に聞いたんですね。そしたら「私は中国人なの」って言われて。ヴァイオリン・セクションは8割くらい中国人で、木管楽器と金管楽器は西洋人が多くいらっしゃいました。多国籍なメンバーがいるなか、それぞれの個性がそのまま保てるのは、シンガポール唯一のプロオーケストラとして素晴らしいと思いました。
リハーサルでは、グラーフさんが目指す音楽にシンガポール響の皆さんが一心についていくという感じが伝わってきて、音楽をその瞬間・瞬間で作り上げていく、本番に向けてどんどん進化していくという感じは、都響と違うものを感じました。リハーサル初日から本番にかけて、完成度の曲線が「グアン」っていう感じです。
エスプラネードでの本番

エスプラネードホールの外観
本番は、リハーサル会場と同じエスプラネード コンサートホール(1,600席)で、地下に駅があるため、宿泊先からの移動も楽でした。開演は19時半だったのですが、都響と違って板つきなんです。開演の5分前くらいからメンバーがステージいて、1分前にはコンサートマスター以外はみんな座っている状態。コンサートが始まるってなったら、自然と音が止んで、コンマスが入ってきてチューニングという流れでした。本番では、皆さんの本番に懸けているものがすごく伝わってきて、「皆んなで音楽を楽しもう」というプラスのエネルギーに包まれながら演奏をすることができました。
シンガポールのお客さんは、拍手の時にブラボーもありましたが、「フー」なんですよ。その人をすごく称える時とかに「フー」ってやる感じが、アメリカっぽいと思いました。アットホームなお客さんの雰囲気があり、オーケストラもアットホームでした。
海外に行くと、環境が全然違うのでいろんなことを考えるきっかけにもなりましたし、新鮮に感じることがいっぱいあったりと、とにかく充実した体験をさせていただき、都響に感謝しています。

©Singapore Symphony Orchestra / Aloysius Lim

蔭井清夏(Sayaka KAGEI)【都響第1ヴァイオリン奏者】
シンガポール滞在期間:2025年10月13日(土)~23日(火)
大阪府生まれ、幼少期をシンガポールで過ごす。
東京藝術大学附属音楽高校を経て、東京藝術大学卒業。卒業時にアカンサス音楽賞を受賞。
第90回読売新人演奏会に出演。 学内選抜により藝大室内楽定期演奏会に出演。 これまでに小澤征爾音楽塾オペラプロジェクト、小澤国際室内楽アカデミー奥志賀、セイジオザワ松本フェスティバル、リッカルドムーティ氏によるオペラアカデミー等に参加。
文化庁/日本演奏連盟主催、新進演奏家育成プロジェクト リサイタル・シリーズのオーディションに合格し、東京文化会館にてソロリサイタルを開催。大谷康子氏に師事。
●2025年10月16日(木)エスプラネード・コンサートホール
指揮/ハンス・グラーフ
ピアノ/ピエール=ロラン・エマール
ジェイムズ・マクミラン:オーケストラのための協奏曲
バルトーク:ピアノ協奏曲第2番
プロコフィエフ:組曲《ロメオとジュリエット》セレクション
●2025年10月23日(木) エスプラネード・コンサートホール
指揮/ミハウ・ネステロヴィチ
ピアノ/ルドルフ・ブッフビンダー
ソプラノ/フレデリーケ・カンプマン
テナー/アンダース・カンプマン
バリトン&バス/ステフェン・ブルーン
バリトン/ウォン・ヤンカイ
合唱/シンガポール交響合唱団
シンガポール交響青少年合唱団
シンガポール交響児童合唱団
グラジナ・バツェヴィチ:序曲
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番 変ホ長調
ニールセン:愛の賛歌
ニールセン:フェーンの春
当事業は日本・シンガポール両国の音楽文化の交流と相互理解を深めることを目的として、《首都東京の音楽大使》である都響が推進する国際交流の一環として取り組んでいるものです。都響とシンガポール響とが相互に楽員の派遣・受け入れをし、それぞれ約1週間にわたりリハーサルや演奏会に参加して交流を図ります。2009年の都響シンガポール公演を契機に開始したもので、今回で9回目の実施となります。
