伊東 裕

チェロ 首席奏者

伊東 裕 (いとうゆう) Yu ITO

(2022年8月1日入団)

奈良県生駒市出身。第77回日本音楽コンクールチェロ部門第1位受賞。葵トリオとして、第67回ARDミュンヘン国際音楽コンクールピアノ三重奏部門第1位受賞。
札幌交響楽団、名古屋フィルハーモニー交響楽団、関西フィルハーモニー管弦楽団他オーケストラと協演。武生国際音楽祭、北九州国際音楽祭、宮崎国際音楽祭、東京・春・音楽祭等に参加。斎藤建寛、向山佳絵子、山崎伸子、中木健二、E・ブロンツィ、D・モメルツ各氏に師事。東京藝術大学音楽学部を首席で卒業し、同大学院音楽研究科修士課程を修了。ザルツブルク・モーツァルテウム大学、ミュンヘン・音楽演劇大学にて研鑽を積む。サントリーホール室内楽アカデミー第3期フェロー。葵トリオ、ステラ・トリオ、ラ・ルーチェ弦楽八重奏団、紀尾井ホール室内管弦楽団メンバー。東京都交響楽団チェロ首席奏者。

私の音楽はじめて物語

発表会で(9歳)
発表会で(9歳)
チェロ

母が自宅でヴァイオリンを教えていて、姉も4歳から習っていたので、物心ついたころから毎日ヴァイオリンの音色に囲まれて過ごしていました。自分もヴァイオリンをやりたい、と言ったようですが、当時は反抗心が強く親の言うことを素直に聞く子どもではなかったらしく、母は大変だと思ったそうです。母はチェロも好きだったので、「チェロをやってみない?」と勧められ、それで6歳でチェロを始め、斎藤建寛先生(相愛大学名誉教授)に師事しました。
斎藤先生はとても優しくて、叱られた記憶がありません。小3のころ、練習が嫌になりチェロをやめたことがあります。何となく寂しくなって半年後に再開した時も、快く迎えてくださいました。先生には高3までお世話になりました。
小2から小さなコンクールを受け始め、小4で参加した泉の森ジュニアチェロコンクールではポッパーの《ガヴォット》を弾いて銀賞をいただきました。小6の時には同コンクールでハイドンのチェロ協奏曲第1番を弾きました。当時『題名のない音楽会』で石坂団十郎さんがこの曲の第3楽章を弾いていて、素晴らしい演奏だったので何度も録画を観たのを覚えています。中1ではサン=サーンスのチェロ協奏曲第1番で金賞をいただくことができました。
当時、チェロの道に進むことはまだ考えていませんでした。姉(現在、読響ヴァイオリン奏者・伊東真奈)は小学生の時から毎日根気よく練習していました。でも自分にはとても同じことはできないなと。
たまたまTVで観た『五嶋龍のオデッセイ』に影響されて小2から空手を習い、中学では陸上部に入り、中距離(1500m)を走っていました。地元の県立高校へ進み、そこでは球技をやりたくてソフトテニス部へ。中学高校時代は体力的にキツくて、チェロを弾かない日もありました。
高1で日本音楽コンクールを受け、第1位をいただきました。この時はかなり集中して頑張りましたが、まさか自分が入賞するとは思っていませんでした。この時ようやく、プロのチェリストになる可能性があるのかな、と希望が生まれました。
高2は理系クラスにいましたが、進路を先生と相談して音大受験を決め、高3で文系へ移りました。日本音楽コンクールの審査員をされていた山崎伸子先生にたくさんの講評をいただき、是非習いたいなと思って、先生が教えていらっしゃる東京藝大を目指すことに。高2の終わりから相愛大学附属音楽教室でピアノとソルフェージュを習い始めたのですが、初めてのことでかなり苦労しました。

室内楽

東京藝大へ進学して、山崎先生のもとで楽器の構え方や身体の姿勢など、基礎からやり直し、弾き方を矯正しました。2年くらいは思うように音を出せなくて、しんどかったですね。音楽的な部分の基礎もたくさん教わりました。山崎先生が藝大を辞められた後、大学4年から大学院までは中木健二先生に師事しました。
学生時代は室内楽にも取り組みました。大学3年の時にカルテット・アルパを結成、アルパは2016年(大学院2年)にバンフ国際弦楽四重奏コンクール(カナダ)に参加するまで続けました。同じ2016年に葵トリオを結成。ただ、この年の10月に私がザルツブルク・モーツァルテウム大学へ留学したこともあり、まだ本格的な活動にはいたりませんでした。
葵トリオは2018年のミュンヘン国際音楽コンクールで第1位をいただきました。トリオ部門の日本人団体としては初の優勝で話題になり、徐々に公演が増えていきました。
2019年4月に葵トリオの3人でミュンヘン音楽演劇大学へ留学。コロナ禍を経て2022年夏頃まで在籍していました。トリオは今も精力的に活動を続けています。

オーケストラ

オーケストラに興味を持ったきっかけはいくつかありました。学生時代に北九州音楽祭に参加、篠崎史紀さん(N響第1コンサートマスター)率いる室内オーケストラで、指揮者なしでベートーヴェンの《運命》《田園》を演奏しました。私には衝撃的で、特に《運命》第3~4楽章のブリッジの部分でのエネルギーの大きさに感動しました。その1年後、小澤国際室内楽アカデミー奥志賀の成果発表会(東京)で小澤征爾さんが指揮したチャイコフスキーの《弦楽セレナード》を聴いて、本当に感動しました。
ザルツブルクの留学時代、周囲には将来オーケストラに入りたいという人がいたので、その影響も受けました。また、ご縁があり、ウィーン・フィルの定期演奏会やウィーン国立歌劇場のピットにエキストラとして参加する機会がありました。ウィーン・フィルはドイツのオーケストラとは違う個性があり、響きがまろやかでとても優雅。オペラでは、たぶん何百回も弾いているだろう曲を団員の方々が本当に楽しそうに弾いていて、その音色が素晴らしかったです。
ミュンヘン留学中に都響のオーディションの情報を知り、受けることにしました。1次オーディションは2020年7月でしたが、コロナ禍のために間が空き、2次は2021年2月。留学を終えて帰国するのを待っていただき、2022年4月から試用期間に入り、入団は8月1日です。1次と2次の間に客演で首席チェロを弾かせていただく機会があり、それが矢部達哉さんのコンサートマスター就任30周年記念公演でした。一体感があり、とても集中度の高い演奏で素晴らしかったです。
今後はオーケストラとトリオの活動を両立させて頑張っていきたいです。オーケストラはまだ勉強を始めたばかりですが、都響とともに成長していきたいと思っています。

(『月刊都響』2023年7-8月号 取材・文/友部衆樹)

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