定期演奏会 Aシリーズ

第953回定期演奏会Aシリーズ

終了日時：2022年6月13日（月） 19:00開演（18:00開場）

場所：東京文化会館ホール案内座席表

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出演

指揮／小泉和裕

プロフィール一覧

曲目

メンデルスゾーン：交響曲第5番ニ短調 op.107 《宗教改革》

曲目解説
ベートーヴェン：交響曲第3番変ホ長調 op.55 《英雄》

曲目解説

　1829年の9月、イギリスに滞在中だったフェリックス・メンデルスゾーン（1809～47）は、ベルリンの家族に宛てた手紙で“宗教改革を題材とする交響曲”の構想について述べ、ドイツへの帰国後まもなく作曲に着手した。翌1830年は、キリスト教のルター派（メンデルスゾーンもその信徒）にとって大きな意味を持つ“アウグスブルクの信仰告白”の起草から300周年にあたっていたのだ。
　この記念すべき年を祝う動きに対し、カトリックの信徒側が抵抗勢力となって世情も不穏な空気に傾いたが、6月25日には首尾よくベルリンで式典が開催へと至った（中止されたという通説を覆す資料を1980年代に研究者が発見）。しかしそこでメンデルスゾーンの新作は披露されずに終わる。彼がユダヤ人であることが影響した可能性も指摘されてきたが、実際のところは、健康状態も手伝って筆が遅れ（4月の段階で第1～3楽章のみが完成）、式典の内容が確定するまでに主催者へ曲を提示できず、採択の対象から漏れてしまったらしい。
　書き上げたスコアを携えながら、メンデルスゾーンは5月にベルリンを離れて長期の旅路につき、訪問先のライプツィヒ、ミュンヘン、そしてパリで演奏会にかけようと試みたが、いずれも準備段階で頓挫。ベルリンへ帰還後の1832年11月にようやく初演が実現する。そこで作曲者自身の指揮のもと演奏にあたったのが、恩師のカール・フリードリヒ・ツェルター（1758～1832）が亡くなるまで指導者を務めていたジングアカデミーのオーケストラだ。ツェルターの後継者の座を熱望するメンデルスゾーンにとっては自分を売り込む絶好の機会だったが、《宗教改革》は芳しい評価を得られず、指導者の選挙にも落選してしまう。彼がこの曲の楽譜を手元で事実上封印し、2度と世に出すことがなかった事情も、心中を察する限り納得ができよう。再演と初版譜の刊行がなされたのは、没後20年以上を経た1868年のことである。
　なお、第4楽章でコントラファゴットに重ねられたセルパン（教会で聖歌の伴奏を担当していた古楽器）は便宜的にテューバで代用する場合がほとんどだが、本日はこのパートを省略した形での演奏となる。
　第1楽章　アンダンテ～アレグロ・コン・フォーコ　敬虔なムードを醸し出す対位法的な楽句に、コラールを対置させた形で序奏部は始まる。やがて弦楽器が奏でる「ドレスデン・アーメン」の音形は、後にリヒャルト・ワーグナー（1813～83）が『パルジファル』で「聖杯の動機」として用いたものだ。主部は力感みなぎる第1主題と、柔らかな弧を描く第2主題に基づくソナタ形式。再現部に先立って「ドレスデン・アーメン」も姿を見せる。
　第2楽章　アレグロ・ヴィヴァーチェ　メンデルスゾーンらしい透明感と生気をたたえたスケルツォ。主要主題の後半楽節には「ドレスデン・アーメン」から派生した音形が盛り込まれている。トリオは素朴なドイツ民謡調。
　第3楽章　アンダンテ　旋律美に富む間奏曲風の楽章。終結部では第1楽章第2主題と関連を持つ動機が顔をのぞかせる。
　第4楽章　アンダンテ・コン・モート～アレグロ・ヴィヴァーチェ　導入部では、マルティン・ルター（1483～1546）が作曲したとされるコラール「神は我が堅きとりで」が管楽器を主体に歌われる。その旋律を活用した推移句から流れ込む主部はソナタ形式。展開部ではコラール主題の後半楽節が印象的な役割を果たす。第1主題のやはり後半楽節に始まる再現部を経た後、コラール主題を高らかに回帰させたコーダが全曲を終結へと導く。
　（木幡一誠）
　

作曲年代	1829～30年　改訂1832年
初　　演	1832年11月15日　ベルリン作曲者指揮　ベルリン・ジングアカデミー・オーケストラ
楽器編成	フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、コントラファゴット、ホルン2、トランペット2、トロンボーン3、ティンパニ、弦楽5部

　フランス革命のさなかに功をとげ、革命後は混乱期のフランスをまとめあげたナポレオン・ボナパルト（1769～1821）。ベートーヴェン（1770～1827）が彼の交響曲第3番を、ほんらいこのナポレオンに捧げるつもりでいたという話は有名だろう。これは本当の話。では、ナポレオンが皇帝になると聞いたベートーヴェンが激怒し、献辞を取りやめたという話はどうか？
　タイトルページに記された献辞が荒々しいペン先で消され、穴まであいてしまっているスコアを、筆者はいちどこの目で見たことがある。Bonaparte のteしか残っていない。「激怒」云々のエピソードの出所は、ベートーヴェンの弟子、フェルディナント・リース（1784～1838）の記した回想録『伝記的注釈』であるが、そこにはこうある。
　「ボナパルトが帝位を宣誓したことを最初に彼に伝えたのは、私だった。彼はその話を聞いて激しく怒りだし、こう叫んだ。『あの男も、その辺の人間となんら変わらないというわけだ! これで奴も、ありとあらゆる人権を踏みにじり、自分の野心だけを満たそうとすることだろう。他人よりも自分を上に置き、暴君と化すだろう!』。そう言うとベートーヴェンは机のところへ行き、スコアのタイトルページの上をつかんだかと思うと、これを破り裂き、床に投げ捨てた。ページは新たに書き直され、このときからこの交響曲は、『英雄交響曲』という題名になったのだった」
　お気づきだと思うが、破り捨てたのであれば、あの穴のあいたページは残っていないはず。つまり、リースが言うスコアと、現在ウィーン楽友協会に保存されている「穴あき」浄書スコアは別物なのだ。あるいは「別物」など存在せず、リースの話がまったくの作り話である可能性もある。いずれにしても、怪しい。違う理由で穴をあけた可能性も考えてみよう。
　
　そもそも、ベートーヴェンはこの交響曲をボナパルトの名と結びつけることで、どうやら「売ろう」としたふしがある。彼はこの一時期、ウィーンからパリに移住する計画を抱いたことがあった。そこに《ナポレオン交響曲》を持ち込んでひとつ注目を集めてやろうと考えたとしてもおかしくはない。あるいは、1804年8月に出版社に宛てた手紙。そのなかでベートーヴェンは、この交響曲が「ボナパルト」という名であることを伝えたうえで、「聴衆の興味をおそらく引くのではないでしょうか」と、控えめながら営業的発言をしている。
　ここからは筆者の考えになるが、こうした目算が働く背景には、当時の音楽界の状況、もっといえば、「交響曲のトレンド」があったと思われる。
　1789年、フランス革命が起こると、オーストリアがこれに干渉したのを契機に、諸外国がフランスと戦争をした。そしてその講和が1797年に結ばれたのだが、その頃、この一連の出来事に材をとった交響曲がいくつも書かれているのだ。たとえば、パウル・ヴラニツキ（1756～1808）の交響曲《フランス共和国との和平に》op. 31。うち第2楽章は「葬送行進曲」と題され、あの処刑されたルイ16世の「運命と死」を描いているが、その中間部はハ短調。ベートーヴェン《英雄》の第2楽章も「葬送行進曲」と題されており、同じくハ短調だ。まさか絶頂期にあったナポレオンの死を予告するために書いたものではなかろうが、ヴラニツキの前例をにらみつつ、革命つながりの受けそうな交響曲を書いた、ともみなせるのではないか。ヴラニツキは当時のウィーンの売れっ子であり、ハイドンもベートーヴェンも一目置いていた。
　ではなぜナポレオンへの献辞を取り下げたのか？　その確たる理由は、結局わからない。オーストリア＝ボヘミアの貴族、ロプコヴィッツ侯爵（1772～1816）にたいする忖度ゆえという説もある。この交響曲が最終的に献じられたのは、ロプコヴィッツ侯であり、またウィーンにある侯の邸宅で、本作の私的初演を持つことができた。ナポレオンの皇帝宣誓（1804年5月20日）があった前後のことである。折しもまた対仏ムードが高まっていた頃。愛国主義的なロプコヴィッツ侯に供する交響曲を「ボナパルト」としては、いかにも都合が悪い。そこでその名を削ったのではないか、というものだ（大崎滋生著『ベートーヴェン像再構築』〔春秋社、2018年〕より）。
　共和主義者のベートーヴェンではあるが、貴族や権力者と無関係に生きていたわけではない。態度の取り方には、その都度、微妙なものがあったであろう。先に紹介したボナパルトの名を利用した出版社への売り込みも、ナポレオンが皇帝に「即位」する前ではあるが、「宣誓」とロプコヴィッツ侯邸での私的初演があってから2、3ヵ月が経ってからのものだ。
　公式初演は、1805年4月7日、ウィーンにて。1806年の出版時には、《英雄交響曲～ある偉大な人間の思い出を祝して》と題された。難聴による精神的危機を乗り越えるようにして、次々と野心的傑作を放っていた、創作中期の仕事のひとつである。

　第1楽章　アレグロ・コン・ブリオ　♭3つの変ホ長調。主和音（変ホ長調）がいきなりバン! バン! と放たれる、驚くべき開始。その後のチェロのメロディが第1主題。3拍子に乗って身体を揺らしていると痛い目にあう。番狂わせが、あちらこちらに仕かけてあるからだ。第2主題は定石どおりの属調（♭2つの変ロ長調）で。大規模な展開部を経て、第1主題も、ふつうに原調で回帰し再現部となるが、そこからまた遠大な展開が始まる。
　第2楽章　葬送行進曲／アダージョ・アッサイ　♭3つの短調、ハ短調。中間部はその同主長調・ハ長調で晴れやかに。チェロとコントラバスをはっきりと使い分けているが、これはベートーヴェンとしても初の試み。
　第3楽章　スケルツォ／アレグロ・ヴィヴァーチェ　再び♭3つの変ホ長調。スケルツォ（「冗談」が原義）～トリオ（中間部）～スケルツォの構成だが、完全な前後対称ではなく、後のスケルツォでは突如2拍子が出てきたりする。トリオではホルンの重奏が聴きもの。通常の2本枠を超えて3本を使う。「営業的戦略」はこんな所にも?
　第4楽章　フィナーレ／アレグロ・モルト　変ホ長調。変奏曲の形式で書かれた楽章。嵐のような序奏のあとに聞こえるピッツィカートによる旋律は、しかし主題そのものではない。これはその低音声部であり、主題はしばらくしてオーボエ上に現れる。その後、フーガ的書法の場面もある。ホルンが主題を凱歌のようにして歌い上げる感動的なポーコ・アンダンテのシーンののち、暗転、突如速くなってサッと幕が降りるあたり、喜劇的な味わいも。
　（舩木篤也）
　＊引用の日本語訳は筆者による。
　
　
　
　

作曲年代	1803年
初　　演	私的初演　1804年5月末～6月初頭　ウィーン公的初演　1805年4月7日　ウィーン
楽器編成	フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン3、トランペット2、ティンパニ、弦楽5部

【当日券情報】第953回定期演奏会Aシリーズ（6/10up）
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販売日時：6月13日（月）10:00～18:00　無くなり次第終了
販売方法：都響WEBチケット（セブンイレブン支払・発券／カード払い・電子チケットのみ）
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※全席種販売予定。
※当日券は会員割引、U-25割引以外の割引はございません。
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