都響スペシャル（12/14） │ 東京都交響楽団

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出演

指揮／エリアフ・インバル

エリアフ・インバル　Eliahu INBAL（桂冠指揮者）

1936年エルサレム生まれ。これまでフランクフルト放送響（hr響）首席指揮者（現名誉指揮者）、ベルリン・コンツェルトハウス管首席指揮者、フェニーチェ劇場（ヴェネツィア）音楽監督、チェコ・フィル、台北市立響首席指揮者などを歴任。
　都響には1991年に初登壇、特別客演指揮者（1995 ～ 2000年）、プリンシパル・コンダクター（2008 ～ 14年）を務め、2回にわたるマーラー・ツィクルスを大成功に導いたほか、数多くのライヴCDが絶賛を博している。『ショスタコーヴィチ：
交響曲第4番』でレコード・アカデミー賞〈交響曲部門〉、『新マーラー・ツィクルス』で同賞〈特別部門：特別賞〉を受賞した。仏独政府およびフランクフルト市とウィーン市から叙勲を受けている。渡邉暁雄音楽基金特別賞（2018年度）受賞。
　2014年4月より都響桂冠指揮者。マーラーの交響曲第10番や《大地の歌》、バーンスタインの交響曲第3番《カディッシュ》、ショスタコーヴィチの交響曲第7番《レニングラード》、ブルックナーの交響曲第8番などの大作で精力的な演奏を繰り広げ、話題を呼んでいる。

曲目

ウェーベルン：管弦楽のための6つの小品 op.6（1928年版）

曲目解説
ブルックナー：交響曲第4番変ホ長調 WAB104 《ロマンティック》（ノヴァーク：1874年第1稿）

曲目解説

　師匠アルノルト・シェーンベルク（1874～1951）が「後期ロマン派」「表現主義的な無調」「12音技法」とスタイルを変遷させた歩みを追いかけながらも、独自の点描的かつ切り詰められたミニチュア的な作風を確立したのがアントン・ウェーベルン（1883～1945）だ。国際的な評価を得られぬまま、第二次世界大戦（1939～45）終結後にオーストリア占領軍である米国兵の誤射によって急逝するという悲劇で生涯を閉じるが、戦後になってからピエール・ブーレーズ（1925～2016）やカールハインツ・シュトックハウゼン（1928～2007）らによって祀り上げられ、シェーンベルク以上に高く評価されるようになった。
　彼が本格的に音楽を学び出したのは1902年のウィーン大学入学後。音楽理論を修めながら、1906年7月にルネサンス時代の作曲家ハインリヒ・イザーク（1450頃～1517）のミサ曲を研究して音楽学の博士号を取得している。並行して1904年からシェーンベルクに弟子入り。1908年に書かれた《パッサカリア》op. 1（1908年11月4日初演）をもってレッスンを卒業した。そして同じ年から1918年6月頃までウェーベルンは、様々な劇場で副指揮者・合唱指揮者として働くこととなる（質が玉石混交のオペレッタを、必ずしも真面目に演奏に取り組まない音楽家たちへ仕込まなければならないストレスによって、大衆向けの娯楽劇を毛嫌いするようになってしまったようだ）。
　こうした遍歴が彼の作品には流れ込んでいるのだが、注目されることが少ないのは、何らかの情景を想起させる劇場的・標題的な要素だろう。ワーグナー、ブルックナー、R. シュトラウス、マーラーの作風を寄せ集めたようなウェーベルン初の管弦楽曲《夏風のなかで》（1904）も実質的には交響詩であったが、シェーンベルクが感情の複合性を表現すべく「雑色」「雑多」「非論理」という新機軸を打ち出した《5つの管弦楽曲》op. 16（1909年5～8月作曲）の強い影響下に書かれたこの《6つの小品》op. 6（1909）も、実は隠れた標題性をもっていることがシェーンベルク宛の手紙で明かされている。
　1912年7月17日の手紙で「ほとんどすべての私の作品が彼女の思い出に由来している」とウェーベルン自身が語っているのは、音楽を愛した母アマーリエのことだ。彼女は糖尿病による合併症によって1906年9月7日に53歳で亡くなっているのだが、1913年1月13日の手紙において《6つの小品》は、母がこの世を去る前後の心象に基づいて作曲されたことが明かされている。

　第1曲　遅く　ウィーンにいるウェーベルンは母が亡くなるかもしれないことを知っており、不安が募っていく。コーダでハープのグリッサンドの後に続く弱音器付きトランペットは、生き続けてくれることを願うかのようだ。
　第2曲　動きをもって　最初のバスクラリネットの気の抜けた旋律が、よく晴れた日だったので何事も杞憂に終わるのではないかと楽観するウェーベルンの姿を思わせる。ところが同じ日の午後、ケルンテンへ向かうなかで母の死を知った衝撃と慟哭が続く。
　第3曲　中庸に　ヴィオラ・ソロで始まる繊細な音響で表現されているのは、ウェーベルン自身が思い出の場所で摘んで、母の棺に入れたツツジ科の花エリカ（ヒース）の香りだという。
　第4曲　とても中庸に　「葬送行進曲」（1909年版第4曲のタイトル／1928年版では削除された）のリズムと低い鐘が徐々に聴こえてくる。埋葬する墓地へと棺の後ろを歩いているウェーベルンは、自らの感情を理解できなくなってゆく。最後の打楽器群の暴力的な響きから、どれほど取り乱していたかが伝わってくる。第4曲では弦は全て休み。管打楽器のみで奏される。
　第5曲　とても遅く　トロンボーンの重苦しい旋律で始まる。埋葬した日の晩、改めて妻と共に墓を訪れて花をたむける情景だ。生まれてこの方、常に親近感を感じてきた母の笑顔を思い出し、一瞬だけ幸せな気持ちになる。
　第6曲　遅く　時は進み、この曲を書いている1909年の夏。最初のオーボエからはまだ悲しみが感じられるが、母の死に向き合えるようになり、黄昏時に連日、墓を訪れている。

　作曲からおよそ3年半後の1913年3月31日、ウィーン・ムジークフェラインザールにおいてシェーンベルクの指揮で初演された。ただし同じ公演の3曲あとに初演されたアルバン・ベルク（1885～1935）の《アルテンベルク歌曲集》が、演奏中にホール内で起きた暴動が警察沙汰となり、コンサートは中断されてしまった。
　《6つの小品》のオリジナルは4管編成でホルン、トランペット、トロンボーンが6本ずつという大編成だったが、今回演奏される1928年の改訂版では印象を大きく変えないまま、2管編成程度に抑えている。
　（小室敬幸）

　
　
　

作曲年代	1909年　改訂1928年
初　　演	初稿版／1913年3月31日　アルノルト・シェーンベルク指揮改訂版／1929年1月27日　ヘルマン・シェルヘン指揮
楽器編成	フルート2（第2はピッコロ持替）、オーボエ2、クラリネット2、バスクラリネット、ファゴット2（第2はコントラファゴット持替）、ホルン4、トランペット4、トロンボーン4、テューバ、ティンパニ、グロッケンシュピール、シンバル、トライアングル、小太鼓、大太鼓、タムタム、低音の鐘（音程指定なし）、ハープ、チェレスタ、弦楽5部

　アントン・ブルックナー（1824～96）のこの交響曲第4番は、彼の他の多くの交響曲と同様、大幅な改訂が施されている。まずは作品の成立過程をみていこう。
　スケッチの着手は1874年1月2日で、前年12月31日に交響曲第3番（第1稿）を書き上げてから2日後のことだった。そして第1楽章から順を追って筆を進め、同年11月22日に全曲のスコアを完成させている。これが初稿であり、ブルックナーは初演の機会を窺い、1876年にベルリンの批評家ヴィルヘルム・タッペルト（1830～1907）にスコアの筆写譜を送ってベルリンでの初演を期待するが、結局実現することはなかった。
　その間にブルックナー自身この作品の出来に不満を感じるようになり、1877年10月12日にタッペルトに宛てて、根本的な改訂が必要との確信を持つようになったことを伝えている。改訂は1878年1月に始められ、10月初旬までに第1楽章と第2楽章の大幅な改訂と終楽章の大々的な書き変えがなされ、さらにその後、第3楽章は新たに作曲したものに差し替えられ、同年12月に作品は生まれ変わった。
　しかし改訂はこれで終わらなかった。ブルックナーは1879年11月から翌1880年6月にかけて再び終楽章に大きく手を加え、1878年改訂の第1～3楽章に、この再度改訂した1880年の第4楽章を続ける形にして改訂を終えた（1886年にわずかな修正を施している）。今日一般に演奏されているのが1878/80稿ともいわれるこの改訂稿である。
　さらに1887～88年に弟子たちがこの交響曲の出版に向けて作品に大幅に手を加え、これは1889年に出版された。そのため作品は20世紀半ばに原典版楽譜が出されるまで、この出版譜の形で演奏されてきた。その後この版は改竄版として忌避されてきたが、最近はブルックナーが弟子たちの改訂を認めていた点を重視してこれが再評価され、ベンジャミン・コーストヴェットによる校訂のもとで新全集版にも組み込まれた。
　本日は1874年の初稿で演奏される。通常取り上げられる改訂稿（1878/80稿）と主題や全体の基本的な構図はほぼ同じながらも、確たる造型の改訂稿に比べて、より激しく起伏に富み、種々の要素が雑多に詰め込まれている印象がある。ブルックナー自ら“ロマンティッシェ（＝ロマンティック）”と呼んでいることに窺えるように、彼はこの第4番でそれまでの彼の交響曲を超える新たな表現世界を求めた。初稿はそれがまだ試行錯誤の段階にあり、様々な構想が充分に整理されないまま、表現意欲が先行してしまっている感が否めない。しかし逆にそこが新鮮な魅力でもあり、インバルをはじめとしてこの初稿を好む指揮者も少なからずいる。
　この初稿の楽譜に関しては1975年に国際ブルックナー協会の全集版としてレオポルト・ノヴァークの校訂版が出され、最近はコーストヴェットによって新全集版のための新たな校訂（近刊）もなされている。本日インバルはノヴァーク校訂版を使用しつつ、自らの判断でそこに多少手を加えて演奏するという。

　第1楽章　アレグロ　変ホ長調　2分の2拍子　弦のトレモロによるいわゆるブルックナー開始（“原始霧”と呼ばれる）を背景にした神秘的なホルンの第1主題と、作曲者自身が“シジュウカラの鳴き声”と述べたという第2主題はどちらも主題自体は改訂稿と同一で、コラール風の第3主題は改訂稿と同じではないものの性格上は類似しており、ソナタ形式の手順に従った全体の構成も共通している。しかし改訂稿に比べて、主旋律に対して動きの多い対旋律をまとわせるポリフォニックな書法が目立ち、また和声付けも違えば、楽想の発展のさせ方や各部間の経過部も異なる。全体に自然の神秘性と広大さを感じさせる改訂稿とは対照的に、初稿は動きが活発で、また華やかな響きが際立っている。
　第2楽章　アンダンテ・クワジ・アレグレット　ハ短調　4分の4拍子　この楽章も主題の素材そのものと全体の構成（A－B－A1－B1－A2）は改訂稿と同一で、特に最初のAとBは、細部ではかなり違いがあるものの、大筋は両稿同じように進行し、自然の中を瞑想しながら逍遥するような性格の点でも共通している。しかし後半は、B1の展開部風の発展や、A2の頂点での第1ヴァイオリンの細かい華麗な動きなど、改訂稿とは異なる特色が顕著になっていく。
　第3楽章　きわめて速く　変ホ長調　4分の3拍子　前述のように改訂稿のスケルツォとは別の初稿独自の楽章。ホルン独奏の呼びかけと、ヴァイオリンのせわしい上昇の動きを中心とした激しい総奏の応答とが幾度となく繰り返され、荒々しい盛り上がりを生み出していくユニークなスケルツォである。対照的に、ヴァイオリンのトレモロを背景にヴィオラとオーボエが伸びやかな旋律を歌い交わして始まるトリオは、牧歌的な気分を湛えている。
　第4楽章　（アレグロ・モデラート）〔自筆譜には速度表記がなく、ノヴァークが括弧で付け加えた〕　変ホ長調　2分の2拍子　ソナタ形式のこの楽章は第1主題と第2主題こそ改訂稿と同一の素材ながら、全体は改訂稿とは全く別物の様相を呈している。冒頭のちょこまかしたヴァイオリンの音型、オーボエなどによる第1楽章第1主題の回想、壮大な第1主題のあとの賑やかな動き、ヴィオラの奏する第2主題における第1と第2ヴァイオリンそれぞれが奏するせわしい対旋律、総奏のユニゾン音階によるこの稿独自の壮大な第3主題など、改訂稿を聴き慣れた耳には驚きの連続で、展開部以降はさらにラプソディックともいえる放胆な発展をみせる。第1主題の総奏による厳めしい再現などを経て、長大なコーダでは第1主題を強調しつつ第1楽章第1主題が壮麗に回帰して終結に至る。
　（寺西基之）

　
　
　

作曲年代	初稿／1874年
初　　演	初稿第3楽章のみ／1909年12月12日　リンツ　アウグスト・ゲレリヒ指揮初稿全曲／1975年9月20日　リンツ　クルト・ヴェス指揮
楽器編成	フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、ティンパニ、弦楽5部

【当日券情報】都響スペシャル（12/14）（12/12up）
都響WEBチケットにて当日券を発売いたします。
会場での対面販売、及び都響ガイドでの電話販売は行っておりませんのでご了承ください。

販売日時：12月14日（水）10:00～18:00　無くなり次第終了
販売方法：都響WEBチケット（セブンイレブン支払・発券／カード払い・電子チケットのみ）
※お申込みには、都響WEBチケットへの事前登録が必要です（登録無料）。
※全席種販売予定。
※当日券は会員割引、U-25割引以外の割引はございません。
※U-25割引の当日券はカード払い・電子チケットのみ。
　その他割引をご希望の方は前売りにてお求めください。　
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※等間隔での空席設定は行いませんが、引き続き、感染症の拡大防止のため、一部の座席は販売いたしません。また、政府や自治体によるイベント開催要件に変更があった場合は、開演時間の変更、販売の一時停止や入場者数上限の設定等を行います。
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　当面の間、当日券を必ず販売いたしますので、外出や体調に不安のある方は当日券（都響WEBチケットのみ）をご検討ください。
※必ず、「来場されるお客様へのご案内」の内容に同意いただいた上でお申込みください。

聴きどころ

「よみがえる原初の風景」
インバルのブルックナー4番、都響では23年ぶりの「第1稿」の演奏です。私たちがよく知る改訂稿とは驚くほど異なる相貌の《ロマンティック》が、インバルの指揮でその野心に満ちた姿を現します。そして、その前衛性で通じるものがあるとインバルが語るウェーベルンの、短くも壮絶な抒情が襲う作品6との大胆な組み合わせも聴きどころです。